
2020年代前半、自動車業界は「EV一色」に染まりました。各メーカーがこぞって電動化目標を掲げ、メルセデス・ベンツも例外ではありませんでした。
EQブランドを立ち上げ、「2030年までに市場条件が整えば全車EV化」という強いメッセージを発信したのは記憶に新しいところです。
しかし2024年以降、状況は大きく変わります。EV販売の伸び悩み、補助金の縮小、インフラ整備の遅れ、そしてユーザー心理の冷却。
こうした逆風の中で、メルセデスは2035年に向けた戦略を静かに、しかし明確に修正し始めています。
現在のEV不利な情勢を踏まえながら、メルセデス・ベンツが2035年までにどこへ向かおうとしているのかを、歴史・製品戦略・プラットフォーム・市場評価の観点から掘り下げます。
なぜEVは「逆風」に入ったのか
まず前提として、現在のEV市場がなぜ停滞感を強めているのかを整理しておく必要があります。
- 購入補助金の縮小・終了(特に米国・欧州の一部地域)
- 車両価格の高止まりと金利上昇
- 充電インフラへの不安が依然として解消されていない
- 「EVに夢を見た層」が一巡し、現実的な目線に戻った
EVが悪い乗り物になったわけではありません。ただ、「誰にとっても最適解」という幻想が崩れた。この変化を、メルセデスは極めて冷静に受け止めています。
メルセデスの原点:Ambition 2039という長期ビジョン
メルセデスの電動化戦略を理解するうえで欠かせないのが「Ambition 2039」です。
これは2039年までに、車両のライフサイクル全体でCO₂排出を実質ゼロにするという長期目標です。
ここで重要なのは、「2039年=すべてEV」という単純な話ではない点です。
原材料調達、製造、物流、使用、廃棄まで含めた全体最適を掲げており、EVはあくまでその中核手段の一つに過ぎません。
つまり、2035年という年は「完全EV化のゴール」ではなく、「現実と理想の折り合いを付け続ける通過点」として位置付けられています。
EQの反省と戦略修正
EQブランドは、技術的には野心的でした。専用EVプラットフォーム、空力最優先デザイン、未来感の強調。
しかし市場の反応は、必ずしも想定通りではありませんでした。
- デザインが従来のメルセデス像と乖離した
- 価格に対して「分かりやすい価値」が伝わりにくかった
- 残価や中古市場での評価が不安定だった
この経験を経て、メルセデスは「EQという別ブランドでEVを語る」方向から、「既存モデル名の中にEVを自然に溶け込ませる」方向へと舵を切り始めています。
2035年までの製品戦略:EVとxEVの現実的併存
現在のメルセデスの戦略は、EV一本足ではありません。
EV、PHEV、マイルドハイブリッド、そして一部市場では内燃機関も含めた併存構造を維持します。
| 時期 | 主な戦略 | 市場の位置付け |
|---|---|---|
| 〜2025年 | EQ刷新・価格調整 | EVの立て直し期 |
| 2026〜2030年 | EV専用PF本格投入+xEV併存 | 地域差が顕在化 |
| 2030〜2035年 | EV主流化(可能な市場から) | 完全EVへの準備段階 |
欧州、中国、北米、日本、中東では事情がまったく異なります。
メルセデスは「一つの答え」を押し付けるのではなく、「市場ごとの最適解」を選ぶ姿勢を鮮明にしています。
次世代プラットフォームが担う役割
MB.EA、AMG.EA、VAN.EAといった次世代EVプラットフォームは、依然として重要な柱です。
ただし、その使い方はEQ時代とは変わります。
- EV前提設計だが、デザインはICEと連続性を持たせる
- 「EVらしさ」を過度に主張しない
- コストと生産柔軟性を重視
これは、EVが特別な存在ではなく「当たり前の選択肢」になる未来を見据えた設計思想です。
2035年のメルセデス像
2035年のショールームには、EVが数多く並んでいるでしょう。
しかし同時に、ハイブリッドや一部内燃機関モデルも残っている可能性があります。
重要なのは、「EVか否か」ではなく、「メルセデスとして納得できる体験を提供できているか」。
この価値観は、EQの試行錯誤を経て、より強固になっています。
よくある質問(FAQ)
Q1. メルセデスは2035年に内燃機関を完全にやめますか?
現時点では明言されていません。欧州の規制次第では縮小しますが、全世界一律での完全終了は想定されていません。
Q2. EQブランドはなくなるのですか?
急になくなる可能性は低いものの、主役の座からは降りつつあります。今後は既存モデル名との統合が進みます。
Q3. EVに不利な今、メルセデスはEV投資を減らすのですか?
投資を止めるのではなく、回収可能な形へ再設計しています。量より質、拡大より持続性を重視する方向です。
まとめ
EVに逆風が吹く今、メルセデス・ベンツは「電動化を諦めた」のではありません。
むしろ、理想先行だった戦略を現実と摺り合わせ、2035年に向けて再構築しています。
EQは成功とも失敗とも言い切れない過渡期の存在でした。
その経験を踏まえ、メルセデスはEVを特別扱いせず、ブランドの文脈の中に戻そうとしています。
2035年に残るのは、「EVだから選ばれる車」ではなく、「メルセデスだから選ばれるEV」。
この地に足のついた方向転換こそが、逆風下におけるメルセデスの本当の強さなのかもしれません。



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