ガソリンスタンド減少と地方EVの現実|ガソリン難民論の方向性

査定君
査定君

ガソリンスタンド減少を背景に、「ガソリン難民」という言葉が使われるようになりました。給油所まで数十キロ、夜は閉まっている、災害時には燃料が入らない、が一部の現実です。本稿では、ガソリンスタンド減少から始まった議論を起点に、地方過疎地域とEVの関係を現実ベースで整理し、「なぜEVは売れないのか」ではなく、「なぜEVは正面から売られていないのか」を掘り下げていきます。

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ガソリンスタンド減少が突きつけた本当の問題

ガソリンスタンドの減少は、単なる業界再編ではありません。
それは地方における「移動インフラの細り」を可視化した現象です。

ガソリンスタンド減少の理由

  • スタンド経営者の高齢化、人材不足
  • 設備更新の負担増(タンク交換で数千万)
  • 高燃費車(ハイブリッドの普及)で給油回数が減少し、自らのインフラを潰す結果に
  • 人口減少でそもそもユーザー数減少
  • GSの大型店、セルフ店への統廃合、不採算店の整理
  • 補助金投入でも営業継続が難しくなった

特に過疎地域では、車は贅沢品ではなく生活必需品です。
通院、買い物、通勤、介護、すべてが車に依存しています。
その前提があるからこそ、「給油できない不安」は生活不安に直結します。

ただし、ここで重要なのは、この不安が必ずしも「内燃機関車でなければならない理由」ではないという点です。
燃料供給が不安定になるなら、供給構造そのものを変えるという選択肢も本来は並列で検討されるべきです。

地方過疎地域ではEV不利とされる前提が成立していない

EV不利論で頻繁に挙げられる条件があります。
集合住宅、月極駐車場、借家。

しかし、地方の過疎地域に目を向けると、これらはほぼ当てはまりません。
多くの世帯は戸建てで、敷地内駐車が前提です。
電柱からの引き込み距離も短く、分電盤へのアクセスも容易です。

つまり、EV導入で最大の障壁とされる「自宅充電環境」が、最初から整っている地域が多い。
これは都市部とは逆の構図です。

集合住宅問題を地方EVの議論に持ち込むこと自体が、前提の取り違えだと言えます。

戸建て×EVは構造的に最も相性が良い

戸建て住宅におけるEVの導入は、想像以上にシンプルです。
必要なのは200Vコンセントと簡単な電気工事だけです。
高額な設備投資や特別な装置は不要で、自治体補助が使える場合もあります。

充電操作はプラグを挿すだけです。
セルフスタンドでの給油と比べれば、身体的負担も操作の複雑さも小さい。
高齢者に不利だとする根拠は、現実的には見当たりません。

  • スタンドに行く手間が無い
  • 営業日や営業時間に縛られない
  • ただプラグを指す操作は難しくない

むしろ、夜間に自宅で完結するという点で、加齢による負担は減ります。
EVの操作性は、従来のガソリン車よりも単純です。

高齢者×EV不利論はどこから生まれたのか

高齢者はEVを扱えないという言説は、事実というより、メディアの印象操作の問題です。
初期のEVは航続距離が短く、公共充電への依存度が高かった。
この時代のイメージが、そのまま更新されずに残っています。

しかし現在のEVは、日常利用を自宅充電で完結できます。
操作も簡略化され、エンジン音や振動も少ない。

年齢そのものではなく、「新しいものに慣れる経験値」を年齢で代替してしまう議論が、
高齢者不利論を生んでいます。

農機具があるからEVは無理、という誤解

地方では農機具や発電機があるからEVは不向き、という主張もよく見られます。
しかし、農機具用途と日常移動用途はそもそも競合しません。

農機具は季節偏重で使用頻度が限られています。
ガソリンや軽油を購入する必要があっても、その量は限定的です。

日常の足をEVに置き換え、農機具用に燃料を使い続ける。
この併存は地方ではごく自然に成立します。

軽トラだけがEV化していない理由

現時点でEV化が進んでいない象徴として、軽トラが挙げられます。
ただし、これは技術的な限界ではありません。

価格、補助金設計、販売戦略の問題が大半です。
近距離作業や構内移動では、EV軽トラは十分に成立します。

軽トラがEV化していないことを理由に、乗用軽EVまで否定するのは論理の飛躍です。

地方の複数台所有という前提

地方では一世帯複数台所有が一般的です。
用途ごとに車を使い分ける文化がすでに存在します。

この環境では、EVは一台完結である必要がありません。
通勤や買い物用のEVと、長距離や牽引用の内燃機関車。
この役割分担は合理的です。

むしろ、複数台所有こそEVの適地は地方なのです。

それでもメーカーが地方EVを正面から売らない理由

ここまで条件が揃っているにもかかわらず、地方EVは本気で売られていません。
理由は需要不足ではありません。

地方EVは、売った後に利益が落ちにくい。
整備頻度が下がり、消耗品も少ない。
ディーラー網のビジネスモデルと噛み合いません。

さらに、EVは既存のガソリン車販売と競合します。
特に軽自動車が主力のメーカーほど、その影響は内部問題になります。

乗用軽主軸メーカーにとっての突破口

一方で、商用軽や軽トラへの依存が小さいメーカーにとって、地方EVはむしろ自然な延長線上にあります。

乗用軽ユーザーは、もともと実用性と維持費を重視します。
EVの価値観と親和性が高い。

地方市場は小さいようで、安定した需要があります。
国内専用でも成立する数が見込めます。

地方EV市場は「売れない市場」ではない

ここまで見てきた通り、地方EV市場は条件が揃っています。
住環境、利用形態、複数台所有、家充電。

足りないのは、販売側の覚悟と設計思想です。
EVを思想や象徴ではなく、生活道具として売る。
それだけで状況は変わります。

まとめ:地方EVは後進地ではなく未開拓地

ガソリンスタンド減少から始まった議論は、地方の移動インフラをどう再設計するかという問いに行き着きます。

地方過疎地域は、EVに不向きなのではありません。
むしろ、最もEVが自然に溶け込む条件を持っています。

地方EVが広がらない理由は、技術でも需要でもありません。
売られていないだけです。

この市場に正面から向き合った企業が現れたとき、地方EVは一気に「当たり前」になる可能性を秘めています。

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