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EV化は日本車潰しか、陰謀論の理由とは

査定君
査定君

「EV化は日本製HV潰し」「EV化は日本車潰し」という記事を見かけました。これは欧米がハイブリッド車が強い日本潰しのために仕組んだ陰謀論なのでしょうか。その真相を解説します。

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日本製HVを潰したところで世界は変わらない

日本のメディアに自画自賛にはウンザリしますね。
全世界において、トヨタ製ハイブリッド車の影響力など一部に過ぎません。舞台となる欧州市場では、トヨタ車がBEVやPHEVを除く、内燃車でNo1の座に輝いているわけでもないのです。HV車は低中速の渋滞走行に特化した燃費特性であり、世界市場の全てで好まれる性能ではありません。
また、海外のPHEV車の製造台数は、日本製PHEV車の遥か先です。もう内燃車ですら、周回遅れにされつつあるのです。
むしろ、日本メディアのHV車賛美は、世界市場における日本メーカーのEV出遅れを助長し、周回遅れを確実にする疫病神なのです。

欧州の燃費規制と技術の変化

CAFE規制、ZEV規制、NEV規制

自動車先進国の欧米を中心として、排気ガスのクリーン化と燃費向上を目指した規制値が急速に厳しくなっていきます。

  • 欧米:CAFE規制(企業間平均燃費)メーカー別で平均燃費(二酸化炭素排出量)を算出し、それが年間販売台数などを加味した一定の基準を超えたメーカーに罰金を科す規制
  • 米国:ZEV規制とは、アメリカのカリフォルニア州内での自動車販売時、電気自動車や燃料電池車など温室効果ガスを排出しない車を一定比率以上販売することを義務付け(2012)
  • 中国:NEV規制(企業別NEV台数管理)中国国内の自動車生産または販売企業で、生産/輸入台数が年間3万台以上の企業
  • 中国:CAFC規制(企業平均燃費管理)中国国内の自動車生産または販売企業で、生産/輸入台数が年間2000台以上の企業

2000年代後半からダウンサイジング化を推進した欧州

欧州では、NAの大排気量エンジンを一掃し、排気量と気筒数を削減したダウンサイジングターボ化を行い、燃費向上を図る施策を推進します。
(写真:2010年代前半には小排気量ターボ化が完了したVWアウディグループ)
2010年代前半には、欧州メーカーのほとんどが、NAエンジンの市販化を止め、全てダウンサイジング化が完了するほど勢いだったのです。
これにより、日本のハイブリッドとは異なり、欧州メーカーが市販する内燃エンジン全車で燃費向上施策を強力に推進したのです。

日本では、いまだにNAエンジンが併存しているように、燃費向上策がHEVだけの日本とは大きく異なるのです。(ダウンサイジングターボ化の流れが遅い)

2010年代前半でHEV車を市販化していた欧州

欧州は、平均速度が高く、プリウス(1.5/1.8L)では、高速域のパワー不足感が否めませんでした。
低速渋滞域における燃費向上に特化した日本型のハイブリッド車は、平均速度が高めな欧州市場では、日本製HEVのパワー不足が目立ち、高速域燃費が悪化してしまったのです。
結果、2010年代前半の欧州ハイブリッド車は、高速域のパワーをアシストするためのパワー型ハイブリッド車が登場していきます。
日本国内では誤解のあるような記事が多いのですが、欧州では、ストロングハイブリッド車を生産する技術は十分にあるのです。
(写真:BMWアクティブハイブリッド3/5/7/X5/X6シリーズなど、すでにフルラインナップ体制の2012年)

ディーゼルゲート事件

VWディーゼル車の試験結果において疑義が発生し、罰金を科した事件。これを契機として、2017年にRDE(Real Driving Emissions)試験を導入し、RDEによるユーロ6規制の強化を実施済。
以降、欧州販売のディーゼル車は全てこの規制値をクリアし、販売を継続。
欧州車全般でディーゼル車の生産を縮小させたわけでもなく、普通に販売していました。

PHVの登場も2015年にラインナップ

欧州では、複数のHEV市販化経験をふまえて、最終的なフルEV車移行に向けての過渡期を支える車としてPHEVを主役に据えます。

  • PHEVも年を追うごとにバッテリー搭載量が増え、純EVの走行距離も延長
  • HEV走行により、効率的な走行も可能

上記により、ルノーを除きストロングハイブリッドの生産から欧州は撤退します。
これは、将来のEV化を見据えた場合に、PHEVの方が効率化良いことを悟ったためです。

  • 低速燃費重視のストロングハイブリッドは、そもそも欧州市場に合わず開発もせず
  • 欧州型の高速型ストロングハイブリッドの生産中止
  • BMWとトヨタ提携後、トヨタ製THSにBMWは興味なし、技術供与なし

EV車市販車の登場が規制強化のキッカケ

世界モデルとして、電気自動車(BEV)としての実用的な市販車が続々と登場しました。
これをキッカケとして充電プラグの規格化も進み、世界中で充電スタンドの整備も進みました。

  • 2009年:三菱i-MiEV
  • 2010年:日産リーフ
  • 2012年:テスラモデルS発売
  • 2013年:ルノー・ゾエ発売
  • 2013年:BMW i3発売
  • 2015年:VW Glof-e発売
  • 2018年:メルセデスEQC発売

欧州老舗の自動車メーカーは、日産リーフよりもEV車の市販化が3年ほど遅れました。
将来、CO2削減施策の本線をEV車とし、移行期間はPHEVを主役に据えたのです。
よって、ストロングHEVなど、欧州市場では最初から考慮していません。
(写真はGolf-E「2015年」以降、ID3/4/5の開発に着手)

欧州では48Vのマイルドハイブリッド車が増加

2019年頃から、欧州では48Vマイルドハイブリット車(MHEV)の標準装備化を推進しています。
MHEVは、HEV車カテゴリにカウントされるため、HEVが売れている傾向を示します。
これは欧州車のMHEV化が強力に推進されているためです。
この施策により、内燃車のCO2規制値(2021年CAFE規制値95g/km)に向けて、多少なりとも改善させる効果が望めるため、MHEV化が加速しているのです。
よって、日本製HEVの売れ行きが伸びているわけではありません。

電気自動車(EV)化は、欧米中に有利なのか?

現在の内燃エンジン主体のメーカーにとっては、非常に厳しいCO2規制ルールです。
トヨタHVを潰したところで、欧米の老舗エンジンメーカーが生き残れる保証は全くないのです。
自ら、内燃エンジン製造設備、雇用の歴史を破壊し、電動化を好き好んで選ぶことは有り得ません。欧州の老舗エンジンメーカーにとっても苦渋の決断なのです。
「日本車潰し」「HV潰し」とか、ナンセンス過ぎます。既にフランスルノーはストロングHV車を市販しており、日本メディアが語るHV潰し陰謀論は根底から崩壊しているのです。
この当たり前の背景から、トヨタHVを仮に年間1千万台潰したところで全く意味が無く、HV潰し陰謀論が、いかにナンセンスなのか?理解できるでしょう。

アメリカのテスラ社には有利だが、他メーカーは不利

米国は、2030年の米国内自動車販売の半分をEVにするという目標を打ち出しました。
米テスラにとっては朗報となりますが、米国のGM、フォードにとっては、まだガソリン車がメインであり、厳しい状況です。

北米の充電インフラ事情も不足気味

北米の充電スタンドは十分とは言えず、充電スタンドが不足してはEV普及には程遠い状況です。

  • 2030年までに、現在の全米21万6000カ所のスタンドに加え、240万カ所が新たに必要
  • さらに、EVによる電力需要増加により、2050年には発電能力が現在のレベルから倍増要

との分析結果となっています。

欧州の事情

世界で最も厳しい規制を敷いているのは欧州であり、乗用車として、 2015 年の 130g/km
と 2021 年の 95g/km (24.4km/L、 57.4mpg) を 2 つのマイルストーンとする CAFE規制 (Corporate Average FuelEconomy) 方式による規制を導入しています。

欧州のインフラ事情

ドイツ国内の公共充電ポイントは6万3570基で、急速充電器の割合は15.6%だった。(2022/7)
「30年までに公共充電ポイントを100万基設置し、特に急速充電に重点を置く」との目標を掲げていますが、こちらも厳しい状況です。欧州域内でも普及率に差が見られます。

ベトナム新興EVメーカー「ビンファスト」

2023/8/28の米国株式市場で、ベトナムの新興EVメーカー、ビンファストの時価総額が日本円で一時、約28兆円に達し、テスラ、トヨタ自動車に次ぐ世界第3位になったと報じられた。

ディーゼルゲート事件とEV化の関係はない

ディーゼル事件を隠すためのEV化という、日本だけの陰謀論は本当でしょうか?
事実は異なります。これは日本メディアが作り上げた「ディーゼル車下げ、HV車上げ宣伝活動」の一環なのです。

ディーゼルゲート事件への見方は誤り

欧州乗用車市場における2014年のディーゼルエンジン車のシェアは53.6%。
2015年にドイツ・フォルクスワーゲン(VW)の「ディーゼル不正事件」により、欧州メーカーはディーゼルエンジン戦略の根本的な見直しに迫られたとする解説が多いようです。
実際は、ディーゼル不正に対して罰金を支払った事実のみです。
よって、事件以降にVWを含む欧州メーカーは、ディーゼル車の生産を完全に停止しておらず、2021年のCAFE規制値クリアのために販売台数を減少させただけです。
VW・アウディ・ポルシェグループが、将来のフル電動化を見据えたロードマップを引き、2015年から「ゴルフe」を市販化していたのです。ダウンサイジングターボの次はPHEV/EVの流れなのです。日本車に追いつけないから、EV化を図ったという話ではないのです。

2016年の規制値はクリアできていた

欧州域内では、2016年CO2規制としては、ダウンサイジングのディーゼル、ガソリン車で十分対応可能な状況だったのです。
欧州は前述の通り、その後の厳格な規制に対してのビジョンをPHEV/EV車で乗り切るロードマップを描いており、日本車型ハイブリッドを開発する予定も無いのです。

日本向け欧州SUVはディーゼルがメイン

BMWやメルセデスなど、日本向けSUVモデルは、2020年以降もディーゼルがメインです。
事件以降も欧州メーカーが、ガソリン車一択のするような施策変更は行っていない実情を日本メディアは語ろうとはしません。

欧州事情のまとめ

カーボンニュートラル欧州陰謀論は、存在しない

日本車、特にハイブリッド車に追いつけないから欧州がBEVを優先したのだ、というカーボンニュートラル陰謀論など、メディアの後つけ理論なのです。その理由は下記の通りです。

  • 2000年代後半から2010年代前半において、純HEV車の欠点を見切った。
  • BMWはトヨタと提携したが、トヨタ製HEVシステムの導入は最初から契約に含まれていない。
  • 日本型の低速域燃費重視のハイブリッドは欧州市場の高い平均速度に不向きである。
  • 純HEV車の欠点として、今後の規制値をクリアするには限界がある。
  • 2010年代に主要メーカーが純EV/PHEV車の市販化を開始
  • ディーゼルゲート事件は、EV化転換のキッカケではない。
  • 2010年代の欧州ロードマップでEV/PHEV化が描かれていた。

上記の状況から、日本型のハイブリッド技術は、欧州の燃費向上策として、始めから対象にしていなかったのです。

VWのEV生産調整をネタに盛り上がる日本メディア

2023年9月、VWのEV販売不振、EV工場リストラのニュースが出ると、「VWのディーゼル事件隠しを発端とした、日本車潰し陰謀論失敗、欧州のEVオワコン、欧州ブーメラン」という、世界から見れば、日本メディアに特化した、自己自慢の記事が踊りました。
しかし、欧州のEV施策が日本よりも進んでいることに変わりなく、日本EV出遅れの事実に変わりありません。
欧州のEV施策にブレは無く、日本EV出遅れの距離は開く一方なのです。

EV化は日本車潰しなのか、真相

日本にはびこる「海外BEVごり押し」説は本当なのでしょうか。

日本のHEVは直近の規制には有効だが

欧州規制において、2021年と2025年規制クリアするために、日本製HEVが有効です。
ただし、その先を見据えた場合に、日本製HEVがクリアできないことは明白なのです。

欧州ではEV/PHEVの実用化を推進した結果

2010年代初頭においては、日産リーフにリードを許しました。
しかし、その後の欧州老舗メーカーは、続々とEV車とPHEV車の市販化を推進しました。

その結果、2010年代後半にはEV/PHEV化の目途が立つ

米国テスラと中国BYDと並んで、欧州車のEV/PHEV車は、世界のトップレベルとなり、2030/2035年規制を見据えた技術的な見通しが立ったのです。

EUルールは、EUメーカーの思惑を超えた

将来の規制を見据えたEV化、PHEV化を進めた欧州メーカーでしたが、EUルールは、メーカーの思惑を超えた規制値が提示され、反発も予想されます。
ただし、EUルールの強制力は強く、自動車メーカーは一定譲歩するしかないでしょう。

2021年のCAFE規制で欧州市場は大混乱

欧州が率先した、2021年の規制値95g/kmは、欧州自動車メーカーにとっても非常に厳しいハードルが課されていると言えます。

米国テスラ以外は、厳しい数値に変わりなく、トヨタイジメでなく、老舗の全自動車メーカーイジメに等しい内容なのです。

2022年の中国メーカー急成長は、中国陰謀論なのか

2022年、中国EVメーカーの躍進が続き、バッテリー資源や工場を中国メーカーに握られてしまった危機感から、欧州が市場で有利に戦うため、ゴールポストを変えたという論調もあります。
しかし、2035規制が合意に至りました。
よって、メディアが語る「中国陰謀論」も存在しません。

「Fit For 55」ルールをベースとしてアジアのメーカーがどこまで欧州市場に食い込めるのか、現地生産を進められるのかが鍵になりそうです。

EV化で自動車メーカー全体の危機

世界の老舗自動車メーカーにとって、内燃エンジン全てを撤廃を迫らているのです。世界的に見ればトヨタ製HV車シェアは微々たるもので、コレを潰したところで、全く意味を持ちません。
北米、欧州の老舗自動車メーカーとて、中国製EVに席巻される可能性が高いのです。
「全世界の内燃エンジンメーカー潰し」の様相なのに、「日本車潰し」と騒ぐ日本メディアの論調が滑稽ですね。

EV化は日本車潰しなのか、まとめ

欧州の政治やメーカーは日本の10年先を進んでいる

欧米のCAFE規制をベースとした、電動化の推進ルールは、欧米の自動車メーカー自体が、技術的にも体制的にも市販化、量産化、技術的な向上、コストダウンの見込み、などの状況が揃ってきた結果と言えます。

  • ディーゼル事件発生より前の2010年代初頭から進めている欧州の施策ロードマップ
  • 東欧の紛争による電力不足は、想定に無かったリスク
  • 各国の電力事情、充電インフラ事情は、各国に差があり課題も多い
  • 電動化へのメーカーの切り替えは、かなり大胆に進めている
  • HEVは、走行中もCO2を排出し、根本解決にならない。
  • e-fuelも走行中もCO2を排出し、根本解決にならない。(2035以降、非現実的なルール許容)
  • PHEVは、日常走行をほぼ純BEVで賄うため、CO2を排出しない。
  • 2015年以降の中国製EVの伸びを見れば、現在の中国車シェアは想定出来た流れに過ぎません。
  • 2023年のVW車EV販売不振のニュースは、日本EV出遅れを正当化する勝利宣言に繋がりません。日本メディアの妄想は日本のEV出遅れに拍車を掛けるだけです。

電動化に向けての課題は多いものの、日本製HEVなど、最初から規制達成に向けての計画内にも含まれていない事がわかります。日本製HEVは一時凌ぎの技術であり、潰す必要すらないのです。

日本がEV出遅れを隠すために「HEV潰し陰謀論」が生まれた

日本では、2014年にFCVの水素燃料電池車を推進しました。

オワコン水素自動車が普及しない理由
世界では、次世代自動車の本命がBEV(バッテリー電気自動車)とされてるにも関わらず、日本製BEVの販売が出遅れていると指摘されています。 このEV出遅れの理由は、FCVオワコン・FCV失敗が原因である理由を解説します。

その結果が、EV出遅れに繋がりました。
これは、日本のメディアがEV出遅れという事実に対して目を背け、日本製HEVこそがベストであるとの話です。これは、日本のガラパゴス化を推進し、ますます世界から取り残される結果となることでしょう。

HEVで世界一ならEV/PHEVでも世界一になるべき

全方位戦略を掲げつつ、HEVだけ強くても意味がありません。もう、2030年規制をHEVで達成することは厳しいことが明らかになっています。
まずは、PHEVとEVで世界の上位に入る競争力を確保できていない状況を改善することが必要なのです。

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