
「欧州は日本のハイブリッド車(HV)に勝てなかったからEVに逃げた」という日本の一部メディアの論調が聞かれますが、実際には歴史的にも技術的にも、そんな単純な理由で政策が動いたわけではありません。本稿では、欧州ディーゼル推進の背景、EV転換の理由、日本車HVの市場影響の実態、そして欧州HVと日本HVの設計思想の違いまで包括的に解説します。
欧州がディーゼルを推進した理由
CO₂規制を満たすための「手っ取り早い手段」だった
欧州連合(EU)は1990年代後半からCO₂排出量の厳格な削減目標を設定しました。
しかし、欧州メーカーの主力は排気量の大きいガソリン車。CO₂削減を短期で達成するためには、「燃費が良いディーゼル車を普及させるのが最も効率的」だったという理由です。
日本でのクリーンディーゼル人気が、燃費性能を物語る
日本でクリーンディーゼルが人気となり、長距離の燃費向上として、ガソリン車に比べた効果が歴然であることを見れば明白です。
ディーゼル燃料への税優遇と政策補助
- ディーゼル燃料税がガソリンより安い
- 一部地域では税制優遇によりディーゼル乗用車が推奨
- メーカーもディーゼル技術に投資しやすくなる構造
こうした政策により、欧州では2000年代に乗用車の約半数がディーゼルになるほど普及しました。
走行環境がディーゼルに適していた
アウトバーンを含む高速走行中心の環境では、「ディーゼルの高トルク・高速巡航燃費の良さ」が生きます。この点で、日本の低速域主体の交通事情とは真逆でした。
欧州がEVへ転換した理由(ディーゼル崩壊と複合要因)
ディーゼルゲート問題(2015年)が決定打
VWが排ガス試験を不正に通過させていた事件により、VW製ディーゼル車の信頼性が崩壊。
以後、ディーゼル乗用車の販売は激減し、メーカーは新たな低排出路線を模索。そこでEVが政策的に優遇され始めました。
これは、欧州の生産量ではトップのVWアウディグループへのペナルティであり、欧州全体がEV完全シフトしたのではなく、平行してMHEV、HEV、PHEVの開発を強化しています。
この報道は、日本では一切流れません。
欧州が設定した2030年代のCO₂ゼロ目標
EUは2035年のICE販売禁止を掲げ、EVを中心とするゼロエミッション車へ舵を切りました。
これは「日本のHVが強いから逃げた」のではなく、「政策で決めた方向性がEVだった」だけです。
2-3. 産業競争力確保(ソフトウェア化・電池産業の主導狙い)
EVは電子制御・ソフトウェア技術への依存度が高い。
欧州メーカーは従来の機械技術では中国勢・テスラに遅れ始め、次世代産業で主導権を失いたくないという意図もありました。
すでに欧州でもMHEV車の生産を開始しており、欧州の高速域にマッチしない日本型HEV車を強化するよりも、PHEV/EV化へシフトすることは、当然の判断とされたのです。
欧州には「ハイブリッド技術が弱い」という認識は誤り
欧州は2000年代から多数のHV・PHEVを投入していた
トヨタやホンダより遅れたものの、欧州メーカーがHV技術に取り組んでいた事実は明確です。
欧州メーカーのHV・PHEV投入モデル簡易年表
| メーカー | モデル | 発売年 |
|---|---|---|
| BMW | ActiveHybrid 7 | 2009 |
| BMW | ActiveHybrid 3 / 5 | 2012 |
| メルセデス | S400 Hybrid | 2009 |
| メルセデス | E300 BlueTEC Hybrid | 2012 |
| アウディ | Q5 Hybrid | 2011 |
| フォルクスワーゲン | Golf GTE(PHEV) | 2014 |
| ボルボ | Twin Engineシリーズ(PHEV) | 2015〜 |
この年表からも、欧州がHV技術で「出遅れで弱い」という認識は誤解であることが明確です。
日本型ハイブリッドと欧州型ハイブリッドの設計思想の違い
| 項目 | 日本型HV(トヨタ等) | 欧州型HV(BMW/MB等) |
|---|---|---|
| 制御思想 | 低速域主体・街乗り燃費重視 | 高速域アシスト・アウトバーン対応 |
| モーター出力 | 中〜小、効率優先 | 大出力、高速でも加速力確保 |
| エンジン回転制御 | 巡航時は低回転キープ | 高速・高回転域での持続出力を想定 |
| 変速機構 | 電気式CVT(eCVT)中心 | AT・DCTベースが主流 |
| 走行環境適性 | 渋滞・市街地に最適 | 高速巡航・長距離移動に最適 |
| 当時の欧州市場適合性 | 低かった(高速が弱点) | 高かった(ユーザー嗜好に合致) |
初期の日本型HVは高速域に弱く、加速・追い越しが多い欧州の道路環境に完全に適応していたとは言い難いのが実情です。
高速域では、エンジン直結駆動となり、日本車に多いNAエンジン+ハイブリッド方式のパラレル方式では、当然パワー不足になるのです。
なぜ日本メディアは「HVに勝てない欧州がEV化に逃げた」と主張するのか?
日本国内視点ではHV成功体験が強すぎた
トヨタ・プリウスの成功により、日本では「HVは世界でも圧倒的」という認識が長く続きました。しかし、実際の欧州市場シェアではHV比率は低く、欧州はディーゼル優先でHVの“土俵”ではなかったのが事実です。
ドメスティックな報道姿勢(日本有利な物語構造)
国内メディアは「日本技術が世界をリード」という分かりやすい構図を好む傾向があります。
その結果、欧州のEV転換理由を
「HVで勝てない → EV化に逃げた」
という単純化した物語として描きがちになります。
特に「日本車はEVに出遅れた」、「日本製ハイブリッドはオワコン」とメディアに叩かれた過去の不満が、今になって「日本車勝利宣言」という誤った報道に繋がっていると言えます。
実際の欧州市場では日本HVは多くの制約を抱えていた
- 高速域でのパワー不足
- 欧州運転文化と噛み合わない特性
- 税制優遇がディーゼルに集中
- 欧州メーカーが主力モデルにHVを積極投入していた
つまり、「日本HVが圧倒的だった」→「欧州が負けた」という構図は、現実とは異なります。
政策・産業・環境規制によってEVへの移行が加速しただけであり、日本HVが直接的な要因ではありません。
現在、欧州製ハイブリッドの商品力が追い付いてきた
- ルノー製ストロングハイブリッド
- ステランティスグループのストロングハイブリッド
- 欧州全メーカーの48Vマイルドハイブリッド
- 欧州全メーカーのプラグインハイブリッド
すでに、2015年以降の欧州製プラグインハイブリッド車のラインアップを見れば、トヨタ製PHEV車を凌駕していた事実を日本メディアは一切報道しません。
日本メーカーでは、いまだに純ICEを販売している状況に比べ、欧州のCO2規制は厳しく、すでに48VMHEV、HEV、PHEVなどの電動化が完了した状態となっています。
日本車勝利宣言は、欧州の実態に見合っていない誤った報道なのです。
まとめ:欧州のEV転換は“日本HVへの対抗”ではなく政策転換の結果
本稿で示したように、欧州がディーゼルからEVへシフトした主因は以下の通りです。
- CO₂削減のためディーゼルが政策的に優遇されていた
- ディーゼルゲートで信頼が崩れた
- 2035年ICE禁止など、政策がEVを強制的に後押しした
- 次世代産業技術の主導権を狙った産業戦略
- 日本HVは当時、欧州市場では大きなシェアを持っていなかった
日本メディアの「日本HVが強すぎたから欧州がEV推進に逃げた」という論調は、市場実態・政策・技術背景を総合すると成立しないことが分かります。
欧州のEV化は「日本対欧州」の構図ではなく、欧州自身の規制と産業戦略による必然的な転換だったと言える「まとめ」になります。

