ルノー車に搭載されたドッククラッチとは何か。一般的なドックミッションとは何が違うのか。メリット、デメリットなどを解説します。
ドッグクラッチとは
ドッグクラッチは、噛み合いクラッチの一種で、クラッチの形が犬の歯に似ていることから、この名称となった。爪の断面形状は矩形や三角形、台形など様々なパターンがあり、爪の形によっては一方向にのみトルクを伝達するクラッチもあります。
噛み合いクラッチやドグクラッチとも呼ばれる。クラッチの2つの部品は一方が他方を押すように設計されており、これによって両方が同じ速度で回転し、滑ることはない。
ドッグクラッチは、滑りが望ましくない場合とトルクを制御するためにクラッチが使われない場合の両方またはまたはいずれか一方の場合に使われる。滑りがないため、ドッグクラッチは摩擦クラッチと同じように摩耗による影響を受けない。
ドグミッションとは
通常のマニュアル車トランスミッションとは
- アクセルを戻す
- クラッチを切る
- シフトのアップダウン操作(シンクロ)
- 再びクラッチを繋ぐ
- アクセルを踏む
ミッション内部のシンクロナイザー(シンクロ)の動き
- エンジンの動力が、クラッチを切る操作で遮断
- 変速操作により、シンクロナイザースリープが押される
- 選択されたギヤに合わせてギヤ回転が同調される
- シンクロナイザーリングと噛み合って変速が完了
一般的なドッグミッションとは
基本的にレース車両に用いられ、シンクロ機構を持たず、ドライバーがエンジン回転数を合わせた上で、シフトアップ・シフトダウンを行います。
レース用途として、シフト操作やハイパワーに耐えられるような耐久性を備えたミッションです。
- メリット:シンクロ機構を持たず、シンプルな機構。クラッチによる断絶操作が不要となり、素早い変速・ダイレクト感が得られ、パワーロスは最小限に留まる。
- デメリット:ミッションへの高負荷、耐久性が要求される。シフトショック大きさや変速操作などにより、一般の市販車用途には向かない機構
ドッグクラッチのメリット
ドッグクラッチのメリット・利点は下記の通りです。
- 爪が噛み合う仕組みなので、滑りが一切起きません。
- トルク伝達率が高く、ダイレクトなフィーリングが得られる
ドッグクラッチのデメリット
ドッグクラッチのデメリットは、大きく下記の2点になります。
- 伝達トルクを調整できない
- 互いの回転速度に大きな差があると爪が弾いてうまく噛み合わない
レース車両であれば、このデメリットをドライバーのテクニックにより吸収することで、デメリットを軽減し、ダイレクトなシフト操作に繋げる事が可能となります。
ルノー車のドッククラッチでは
カウンターシャフトとサブモーターが緻密な回転制御を行うことで、正確にギアを嚙み合わせてトルク伝達に繋げる操作を自動化しています。
一般ドライバーでは不可能とされた操作を電子制御・自動化することで、デメリット部分を解消しているわけです。これは緻密なモーター制御によるところが大きいです。
実際のドライビング、シフトダウン、シフトアップ操作でもスムーズかつダイレクトなシフトフィールは、日本製CVTというよりもスムーズなトルコンATに近いものです。
ルノー車のドッグクラッチの仕組み
DCTとは根本的に異なる
前述の通り、ドックミッションは、レースカーなどに用いられる仕組みです。
現在のハイブリッド車では、トルコンや機械式のクラッチを用いるケースが多いのですが、ドッククラッチは、トルコンや機械式クラッチのような、駆動力トルクの断絶を行うクラッチ機構を持ちません。
この点で、VWのツインクラッチ(DSGやDCT)をイメージする方が多いのですが、仕組みが異なります。
ルノー製ハイブリッドシステム(E-TECH HYBRID)とドッククラッチ
エンジンとモーターの駆動力を伝えるだけでなく、回生と発電も行うシリーズパラレルハイブリッドシステムです。エンジン側4速とモーター側2速のシリーズ・パラレルの組み合わせにより、15通りの駆動バリエーションとなるそうです。
パワーユニットから駆動系への流れ
- ドライブシャフト
- エンジン用4速、モーター用2速ミッション
- ドグクラッチ
- カウンターシャフト+サブモーター(回転差分を自動調整)
- エンジン、モーター
駆動用1.6Lの自然吸気エンジン
駆動用エンジンで、低速走行や低負荷時は、基本的にモーター駆動走行
- 最高出力94PS/最大トルク15.1kgm
- エンジン側は、4速AT
- エンジン用1軸ドグミッション(1速と3速)
- エンジン用1軸ドグミッション(2速と4速)
駆動用モーター
日本製ハイブリッド車に比べて大きい、1.2kwhのバッテリーを積み、駆動用モーター(36kW)として機能します。(主に低中速域を受け持つ)
- 最高出力49PS/最大トルク20.9kgm
- モーター側は、2速AT
- モーター用1軸ドグミッション(2段階変速)
サブモーター(ハイボルテージスターター&ジェネレータ)
クラッチを持たないドグクラッチのため、レースカーでは、ドライバーがギヤの回転数合わせとシンクロを手動で行うところ、サブモーターが自動的にギヤ回転数の合わせを行うため、自然なシフトフィールが得られます。
- 最高出力20PS/最大トルク5.1kgm
- サブモーター(エンジン始動、発電とミッションの回転数を合わせる動き)
- カウンターギヤ(ミッションとエンジン+モーター出力の調整)
ルノー車ドッグクラッチのメリット・デメリットとは:まとめ
欧州市場向けに低速から120kmを超える高速域まで、日産e-PowerやトヨタTHS2などの低中速域に特化した日本製ハイブリッドよりも、ダイレクト感溢れるフィールで非常に高効率な動力性能と燃費性能を発揮します。
DCTのような機械式クラッチを持たない点も画期的な仕組みです。
欧州市場では、ややフル電動化がトーンダウンしたため、ルノー製ハイブリッドシステムが脚光を浴びる可能性があります。
回生ブレーキと実ブレーキとの協調など、さらなるフィーリング改善も見込まれますので、ルノー製ハイブリッドシステムの今後に期待したいと思います。