2016年、円弧動エンジン(マシモエンジン)という今までに無いエンジン形式が登場しました。メリットとデメリット、登場から現在までの過程をまとめます。
円弧動エンジンの概要
円弧動エンジンの呼び方
円弧動エンジンという今までに無いエンジン形式が登場したようです。(2016年)
こどうは「弧動」であり「鼓動」ではないようです。
円弧動エンジンの特徴
このエンジンは一般的な自動車エンジンの「レシプロエンジン」と異なります。
多くの難題や燃費の悪さにより、生産を中止したマツダ「ロータリーエンジン」とも異なります。
レシプロエンジンとロータリーエンジンと異なり、新しい発想から誕生した構造を有するエンジンです。ドーナツ状のシリンダー内に、ドーナツ状の中心を起点に円弧を描いて往復運動するピストンを収め、4つの燃焼室を設けるという、レシプロ式とロータリー式の双方の利点を活かした新しい構造となっています。自動車用のレシプロ式2000ccエンジンの重量が200kg前後になるようですが、「円弧動エンジン」の重量は15kg以下に留まっています。
エンジンの小型化により車体総重量の軽量化も図ることができ、排気量1000ccの円弧動エンジンで従来の3000cc相当の244psを発生しつつ、燃費は従来の1000cc以下を達成するということです。
日本ソフトウェアアプローチ社が開発し、円弧動エンジンの動作試験機は、埼玉県産業振興公社に展示されているようです。
試作エンジンは2017年3月予定としていましたが、現在は未完成の状況です。
円弧動エンジンのメリット・デメリット
円弧動エンジンのメリット
- 重量が通常のレシプロエンジンに比べて非常に軽い。200キロが15キロ。
- レシプロエンジンのリッター換算で244ps
メリットは、軽量、コンパクト、同一排気量に比べて3倍のパワーを発生しつつ、燃費は排気量相当に留まるとされる点です。
現時点では未完成の構想段階
メリットとして挙げた点は、素晴らしいのですが、デメリットは、まだ実物が未完成であり、ロータリー式エンジンのデメリットを継承することが考えられます。また、完成後、市販化に向けて熟成にも時間がかることも予想されるます。
いずれにしてもスーパーコンピュータにシュミレーションさせれば、その実現性や問題点も実物を待たずして出来そうな気もします。3Dプリンタ技術と併用させれば、安価に出来そうですね。
素人考えですが、通常のレシプロエンジンのように上下運動を回転運動に変えるのであれば、回り続けることで力の逃げ場があります。円弧動エンジンは、クランク部分が、水平対抗エンジンのイメージとなりますが、ピストン部分は、爆発力をピストン壁が耐えつつ、シーソーのよう往復運動となるので、かなり負荷が高そうに見えるのは気のせいでしょうか。
とにかく、うちわのようなピストンを支える軸の部分の負荷が猛烈に高そうです。
ロータリーエンジンのデメリットを全て継承
参考までにロータリーエンジンのイメージです。
バルブを持つレシプロエンジンや円鼓動エンジン同様の駆動ロスがあります。その反面、ロータリーエンジンは、バルブ駆動が無くシンプルです。
ロータリーはトルクが小さく、燃焼効率も悪くシステムとしてのロスが大きい点で、市販エンジンとしては、マツダRX8を最後に市場から姿を消しています。円鼓動エンジンは、ピストンとシリンダー内壁の隙間は一定なのでロータリーエンジンのようにアペックスシールの変磨耗の影響は少ない無いのかもしれません。一方、往復運動による爆発力や熱の影響による劣化はありそうです。
19世紀から数々のエンジンが発明されていると思いますが、現在まで主力となっているレシプロの構造に大きな変化はありません。
やはり、先人の知恵と熟成テクノロジーは半端ではなかったということでしょう。
その間、2ストロークエンジンやロータリーエンジンが登場したが、燃費や効率に問題があり市場から淘汰される運命となっています。
自動車用として生き残っているのは4ストロークのレシプロエンジンに留まっています。
ハイブリッドやEVなどの電気自動車などの新しい仕組みの登場と直噴ターボなどの従来技術の革新による効率化もすすんでおり、高出力、低燃費を謳う円鼓動エンジンの将来性に対してライバルも多いです。自動車エンジンの歴史の中で、今まで円弧動エンジンが生まれなかった理由はなぜでしょうか。ピストンの複雑な形状が製造できなかったのか、もともと発想が無かったのか、これから試作エンジンの作成に向けて、その過程を公開して欲しいと思います。
さて、開発元の(株)日本ソフトウエアアプローチのHPの造りがかなり微妙です。
http://www.jsain.co.jp/
技術資料はPDFで見せた方が良いように思います。HPのアピール度や見た目に洗練さが感じられない素人感たっぷりな造りです。少なくともこの造りでは、一般企業からの開発者募集や資金援助というアピールに繋がらない気がします。
円弧動エンジンの仕組み
このエンジンの仕組みとしては、4サイクルのレシプロエンジンと同様の動作になります。
1:吸気行程
円弧動ピストンの内側と外側では吸気をするための負圧が大きく異なり、吸入ガスは負圧の大きい外側に多量に流入する構造となっている。
また、引張流体の考えにより吸入ガスは外側シリンダー壁の摩擦抵抗で強く加速されるため、当該設計では自然吸気に対して1.5倍以上の過給効果が得られるとのことです。
疑問点:この部分に関して言えば、最新型エンジンは直噴ターボのダウンサイジング化が進んでおり、それほどのメリットではないと思われます。
2:圧縮行程
円弧動ピストンの内側と外側では動作速度が大きく異なるのと、円弧動ピストンの遠心力により圧縮ガスに強い渦流と乱流が発生されます。
疑問点:この部分も通常のシリンダーでもスワールを発生させる仕組みは数多くあり、特別のメリットではないと思います。
3:燃焼行程
圧縮行程で発生した強い渦流と乱流と加速された圧縮ガスにより燃焼速度が速くなり、燃焼ガスが外側シリンダー壁の摩擦抵抗により強く加速されるので、円弧動ピストンに作用する圧力が増大する。
疑問点:ピストンの上死点で無駄な空間があり、圧縮比が低い感じがするのは気のせいでしょうか。
4:排気行程
円弧動ピストンの遠心力と排気ガスが外側シリンダー壁の摩擦抵抗により強く加速されるので、排気ガスがシリンダー内に残留することが極めて少なくなる。
疑問点:ピストンの上死点で無駄な空間があり、排気ガスが残留しそうな感じもします。
デメリットな観点でコメントすると上記の感じになる。
いずれにしてもレシプロエンジンやローターリーエンジンの課題は過去の事例からは明らかになっています。それらの課題はソフトウエア的なシュミレーション、科学技術計算によってモックアップを作るまでもなく可能かと思うのですが、いかがでしょうか。
良い点ばかりのスペックでなく、素人的な観点でのデメリット・リスクについてはソフトウエア的なアプローチで事前に解決しても良さそうです。
次世代小型エンジンが登場
アメリカ・コネチカット州の企業Liquid Pistonが小型ロータリーエンジン(The X Mini)の試作機を発表。独自のHEHCサーモダイナミック・サイクルという技術を使ったロータリーエンジン。
http://liquidpiston.com/
- 重量あたりの出力が高い。
- 4ストローク・ガソリンエンジンと比べると約30%
- バルブを持たず、排気の乱流を抑えることによって静消。
- 主要な可動パーツが2つしかなく、バランスも最適化されているので、振動はゼロに近い
- ガソリンエンジンと比べて約20%の、ディーゼルエンジンと比べて約50%の燃費改善
2017年の状況
現時点で、試作エンジンの完成版は登場していないようです。
作成途上であれば、その過程がHP上にアップされても良さそうですが、その気配もありません。
やはり、ピストンの上下運動を回転運動に変えるレシプロエンジンと異なり、ピストン壁が爆発力を受け止める構造に無理があったのではないでしょうか。
2022年の状況
サイトを確認したところ、円弧動エンジンという名称がページタイトルから消えたようです。現在は、「マシモエンジン」として掲載されているようです。
マシモエンジンの動作ムービー・技術資料を配布 (jsain.co.jp)
実現化見送り・まとめ
2016年のプレスリリース時には、自動車関連のネット誌面を賑わせたものの、市販化、実用化に向けて、モックアップの作成レベルで止まっているようです。
レシプロエンジンの歴史を塗り替える「円弧動エンジン」は「マシモエンジン」と名前を変え、延命していることは確認できました。この技術資料が、現実のエンジンとして日の目を見ることを期待したいと思います。(2023/8)