水素自動車「燃料電池車(FCEV)と水素内燃機関(HICE)」の今後とは?。水素自動車に未来はあるのか、トヨタの水素自動車は、失敗しているのか、今後の動向を解説します。
水素自動車(FCEV)の失敗状況
燃料電池車(FCEV)と電気自動車(BEV)と比べた評価です。
項目 | 燃料電池車(FCEV) | 電気自動車(BEV) |
---|---|---|
車両価格 | かなり高い | 高い |
燃料コスト | かなり高い | 安い |
燃料補充時間 | ガソリンと同等レベル | 急速充電も含めて長い |
消耗品寿命 | 水素タンク、樹脂部品の定期交換要 | バッテリー寿命が短い |
航続距離 | 長い | 容量と価格に比例 |
航続距離 | 長い | 容量と価格に比例 |
高速走行 | 得意 | 電気の消耗が激しい |
スタンド普及率 | 非常に少ない | 全国に増えつつある状況 |
家庭で補充 | 不可能 | 家庭用コンセントやプラグ追加で可能 10-20万程度(2021) |
冷房暖房 | ガソリン車と同等 | 電気の消耗が激しい |
街中で見かける日産リーフとトヨタMIRAIの数やEVスタンドの数を見れば、勝敗は一目瞭然。
日本国内で、たった3桁の水素スタンド数を見れば、ド素人でも勝敗が予測できるでしょう。
今後のコストダウン、普及率など、EVとFCV同列で語るのはナンセンスというレベルです。
EV側にも各種問題点が無いとは言えませんが、普及率や改善スピードは比べるまでもなく、完全に結論は出ていると言えるでしょう。
水素販売価格の値上げが相次ぐ
2024年、円安や電力高騰により、水素価格の値上げです。
ENEOSが1650円/kgから2200円/kgに値上げです。
ひと昔前の1210円/kgが、18km/L相当のハイブリッド車の燃費と同等のランニングコストとして設定されていたのですが、2200円/kgでは、9.9km/L相当になったイメージです。
水素燃料価格において、割高感が隠せなくなった事で、乗用車として、水素燃料電池車の存在意義そのものが危うくなっています。もともとの水素販売スタート価格に経済的合理性が一切無かったため、崩壊するのは時間の問題でした。
水素燃料電池車、水素自動車の概要
トヨタの大誤算
トヨタとテスラが提携解消の当時は、ハイブリッド車(HV)の次は、水素自動車(FCV)という未来予想図が、トヨタの中にあったのです。当然、部品点数が多く、自動車産業として大きな母体を抱えるトヨタによっては、FCVはメーカーとしての願望的なシナリオだったのでしょう。しかし、電気自動車のコストダウンや航続距離の進化、普及スピードが圧倒してしまい、将来構想としてはEV中心のシナリオに書き換える必要が出てきました。
世界的な電気自動車一辺倒の流れ
- トヨタの水素自動車は2世代目ですが、価格・コスト面で電気自動車(EV)に完全に劣勢
- 水素スタンドの普及は、一向に進まず。(国内は、たった3桁)
テスラのイーロンマスクの予想通り、インフラ面で普及の進まない水素自動車(FCV)は完全に劣勢となり、EVが全世界的に主流となっています。
- トヨタはHVとFCVに傾注し、テスラとの提携を解消
- テスラはEVに特化し、株価はトヨタを抜く時価総額に
欧州でも再生エネルギーの選択肢として、必ず水素が取り上げられるものの、普及率やインフラの整備など、EVに比べた圧倒的な出遅れが目立ち、とても同じ土俵で語る存在ではありません。
トヨタ水素自動車の劣勢は明らか
EVスタンドの普及率、EV車シェアを見れば、もう水素自動車が入る余地すらなく、EV車の不利な大型トラックなど、普通乗用車以外に活路を広げる時期に来ているのでしょう。
もう、マルチソリューションとして、同列に語る意味すらない現状を直視すべきです。
2014年に描いた水素の未来が失敗だった
当時は、FCVの輝かしい未来を描いていたのでしょう。しかし、10年後の未来としてFCV車もインフラも全く増えていません。
過去の汚点を生産し、電動化にシフトに傾注すべき時期に来ているのでしょう。
水素が普及しない理由
- 水素ステーション不足(スタンド設置で4、5億の高額コスト)
- 水素ステーションに専用要員が必要(現時点、セルフ水素補充は禁止)
- 水素ステーションへのタンクローリー不足
- 水素製造コストが割高(化石燃料で発電して水素を製造する流れが、本末転倒)
- 水素を冷却しておく貯蔵コストが割高(化石燃料よりも劣化が早い)
- 水素ステーションの各種樹脂部品の定期交換が必要
- 水素を利用する自動車の絶対数不足(ユーザーが増えなければ、スタンドも増えない)
- 水素価格の高騰により、燃料代の高さがデメリットになった
ガソリン並みの給油時間というメリットはありますが、それを維持管理するための莫大なコストが普及を妨げています。
基本的に、家で充電するというバッテリーEVが、今後の主役となってしまった今、水素の持つメリットが何のアピールにもならなくなってしまったのです。
大型トラックなどBEVが不得意な分野でも、水素価格の高さから、経済的合理性が一切無く、その分野への進出も難しくなりました。
水素はマイナーのまま終わる
トヨタMIRAIの販売台数は低迷しています。
新型MIRAIも焼け石に水
- 航続距離は850kmで先代の1.3倍に向上
- 居住性と操安性も向上
- 車の性能は向上したものの、水素を取り巻く厳しいインフラは変わらず
- 車体価格は普及とは程遠い700万円台(補助金入れても焼け石に水)
ホンダのFCVも販売終了
水素陣営のホンダもFCV車の2021/9販売終了となり、ホンダは電動化重視を掲げる点を発表しています。もはや、水素は閑古鳥が鳴く状況でしょうか。マルチソリューションという概念は崩壊しつつあります。
ホンダの新FCVも将来性が危うい
2024年、ホンダは新FCVユニットを搭載したCR-VのPHEVを発売します。PHEV車ということで、日々の利用はEV走行であるため、本来の水素燃料電池車の意味が無いようです。
北米では水素スタンドの撤退・縮小傾向となっており、日本のENEOS値上げだけでなく、世市場の将来性は、かなり厳しいと言えるでしょう。
水素補助金の愚策
経産省の「トヨタ優遇策」は明らかです。
- 日本EV補助金:最大42万円
- 日本FCV補助金:最大210万円
- ドイツEV/FCV補助金:約110万円
- フランスEV/FCV補助金:約90万円
水素スタンドの低迷
莫大な燃料代を払っているトラック輸送業界と水素を安価に提供できる業界がタッグを組む図式よりも、中国製EVバスが先行している実態は、日本で早々に水素の促進を掲げた国や企業にとって思いもよらなかった構図でしょう。
水素ステーションは2023年9月現在「全国160ヵ所以上」
トヨタの2023クラウン紹介ページに踊る「全国160ヵ所以上」の数字が泣かせます。
2021/3時点で全国130カ所からの増加推移を見れば、2030年の無謀なグラフに呆れるしかありません。
圧倒的なEVスタンド数
EVスタンドの数を見れば勝負は決まったと言えます。
日本全国 19,300拠点のEV充電スタンドが設置。(2021/4)
- 充電スタンド登録拠点数の内訳、重複有り
- CHAdeMO(急速)7,740
- 100V/200V(普通)13,960
- TESLA(テスラ)192
ガソリンスタンドは年々減少
ガソリンスタンドの数は年々減少していますが、29,647箇所です。(2020/7)
もはやインフラでは圧倒的な差がついています。そして、上記の統計に入らない家庭用充電設備の増加数は言うまでも有りません。市場の普及率や利便性では、すでに勝負が付いていると言えます。今後は、安価なEVセカンドカーで家庭用充電機での補充スタイルが定着してしまうと、スタンドにわざわざ出向くという従来型スタイルは、長距離用途のみというカタチになるのかもしれません。
水素のインフラ整備が先
今後、単距離用途は、全てEV車に置き換わるスピード感で世の中は進んでいます。
日本は、世界市場の中で取り残されたガラパゴスな一人負けの状況です。
EV全盛の中で、水素乗用車は選択肢に入っておらず、このままでは水素失敗に終わります。
そこで、国策として水素優遇の特権的な優遇策が必要なのです。
水素・起死回生の策とは?
- ガソリンスタンドに水素スタンドを併設可能な、技術と法的整備
- 水素製造コストは、EVを圧倒的に凌駕する低価格を実現する、技術と法的整備
- 貨物輸送・火力発電の全て、水素に置き換える革新的な技術と法的整備
- 再生エネの余剰電力を全て水素に置き換えて蓄える仕組み
- EVは乗用車以下、水素は貨物の切り分けが出来れば、国内雇用も一定確保できるでしょう。
トヨタのインフラ他力本願で自らの首を絞める結果に
官民一体となった水素普及施策ですが、現在の水素スタンドの普及率を見れば、完全な失敗です。
- 水素インフラをトヨタ自ら設置・普及
- 乗用車以外のトラック、船舶などの水素動力源の開発と安価な提供
トヨタほどの資金力があれば、水素製造から水素スタンドの供給までのインフラ投資、水素燃料のコスト削減と燃料代を電気以下に下げるなど環境整備など、水素普及の起爆剤としてのアクションが必要でしょう。水素自動車だけを作り、補助金垂れ流しでは、EVに対して勝ち目はありません。
EV車からFCV車への移行は厳しい
- EVユーザーは、ソーラー発電と自宅充電の経済性と利便性を覚えてしまった
- EV派となったユーザーを水素派へ移行することは難しい
トヨタ自ら水素インフラを整備するだけでなく、再生可能エネルギーを用いた水素生成の循環サイクルができれば、バッテリー蓄電に頼る必要も不要となります。いずれにしても水素関連インフラ整備への投資が圧倒的に不十分です。水素はマルチソリューションではなく、ユーザーから見てEVと同等レベルの選択肢には入りません。
むしろ、コストでEVと水素の差は開く一方です。欧州や中国のEV促進策により、水素自動車は周回遅れどころか、戦力外通告のレベルです。
MIRAIの失敗からクラウンに積む愚策
MIRAIボディを流用し、なんとかFCEVのイメージアップに繋げたいとする、苦肉の策です。
FFプラットフォームベースのクラウンクロスオーバー、ワゴン、スポーツの流れからセダンだけ外れて、FCEVを搭載するものの、販売増とはならないでしょう。
むしろ、クラウンの足を引っ張る存在となりかねません。
水素タンクのコストが異次元の領域
1個200万円超え、採算コスト度外視の水素タンク
水素タンクの超高額コストについては、一本200万以上とされています。それを3本搭載している採算コスト度外視の補助金垂れ流し状態は、BEVよりもFCEVの方が遥かに雲の上なのです。
メディアはほとんど報じませんが、これがBEVの代替車となるMIRAIの救世主に据えた実態なのです。
4年以内でタンク取り外しの定期点検が必要
水素タンクは、高圧ガス保安法によって定期検査が必要だ。製造日から最初は4年1カ月以内、それ以降は2年3カ月以内に検査を繰り返す必要がある。水素タンクは円筒形のため、車体から取り外して全体を検査するのが一般的であり、高額な工賃がかかる。
水素タンクは15年で廃棄
水素タンクの使用期間は15年だ。タンクとバルブの再利用は禁じられています。リサイクル技術は進展していません。
バッテリーのコストが大量生産により、低下し性能向上する一方で、水素タンクは時代に取り残された産物と化しているのが今の実態です。
バッテリーのコストや寿命を語るレベルでない
バッテリーの寿命は100万キロ超えの高寿命製品も登場し、10年前に比べ車体価格もかなり下がってきました。バッテリーのリサイクル技術も進む一方です。
水素エンジン車「水素内燃機関(HICE)」に未来はない
水素を燃料とし、既存のガソリン内燃エンジンの代替として、水素を直接燃焼する内燃機関になります。2000年代にBMWが実用化を目指し、試験車両をリリースしたものの市販化を見送りました。BMWは、この失敗経験からトヨタと提携し、トヨタ製燃料電池車(FCEV)ベースの試験車両開発をかなり前に実施済(2015年)です。にも関わらず、市販化を先延ばしする理由は、環境アピールだけで推進出来ない問題が背景にあるようです。
- 水素エンジン車のレースカー(現在、カローラで耐久レースに登場)
- AE86の水素エンジン車
- フランスのルマン24時間レースのFCEVとHICEの対応
など、2020年代に入り、水素燃料電池車の低迷・失敗が確実視されてからか、水素の話題作りに余念がありません。トヨタの資本力を以ってすれば、レース場に「水素工場」を持ち込むことなど容易なのかもしれません。
水素エンジン車は、水素タンクの大きさや燃焼効率がガソリンに比べて明らかに劣ることや超極低温の保管など、現実的に現在の技術では市販車への適用は難しいとされています。
このような、水素アピールは、国内外のEV出遅れ論調に拍車を掛けるだけでなく、実際にトヨタの電動化(BEV)推進の遅延を招く結果となるでしょう。
BMWもホンダも見捨てた水素エンジン
水素エンジン車の効率は内燃車に劣ります。搭載するタンクのサイズ、コスト、インフラなど、どれを取っても現在のBEVに勝てる要素はありません。
BMWもホンダもその将来性に見切りを付けたのです。
2006年にハイドロジェン7のリース車登場後、効率の悪さから水素自動車からは撤退。
FCEVとて、その将来性に疑問がありますが、少なくとも水素エンジンの可能性はゼロと言えるでしょう。水素エンジンを賛美するメディアは完全なお抱えといえるでしょう。
トヨタの水素燃料電池車と水素自動車は失敗:まとめ
FCVやガソリンの代替燃料があろうと、現時点では普及率は極少数に留まっています。
これを同列、同等のように選択肢の一つとして語るのは完全に問題がありますね。
よって、ガソリン、ディーゼル、EVの三者の普及状況の中では、FCVは超マイナーであり、マルチソリューションな選択とは程遠い存在です。Windowsに対するMacのシェアレベルにすら達していない「超ニッチマーケット用」なのです。あくまで、普及率を絡めた将来性を含めて、語るのが妥当でしょう。
水素価格値上げ、水素スタンドが普及しない
水素価格は補助金頼みで値上げ傾向、水素スタンド設置数億円に加えて、高コストで撤退・縮小傾向と普及・拡大の目途は全く立っていません。まずは、BEVの普及が先であり、水素普及の優先順位は限りなく下がることは避けられない流れです。
トヨタとして、どうあるべきか
EVの普及率拡大と共に、EVデメリットが表面化してきた欧州では、FCVが食い込むチャンスだと思われます。日本では拡大が見込めないFCVですが、欧州市場では先行投資に見合うだけの理解が得られそうな環境は、日本よりも整っていると言えます。しかし、欧州市場ではトヨタやヒョンデのFCVは全く売れていません。これがBMW製FCV試験車が市販化を進めない理由です。
2024年8月27日に国内メディアが「全面提携」のような過剰報道がありました。
完成済BMW X5試験車は数年後の市販化という報道内容に一切やる気なしの内容となっています。
バス領域でもFCVより、BEVがシェアを伸ばす昨今、残されたFCVの活路は大型トラックしか残されていないと思われます。すでにMIRAI市販化から10年過ぎたました。現在の普及率から、乗用車FCVは、完全に大失敗と認めた方が良い時期に来ていると思います。
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