ホンダは、2010年に水素エンジン車の開発を中止していた事を発表。
なぜ、ホンダが、水素エンジン車の開発を中止し、撤退したのか理由を解説します。
ホンダが、水素エンジン車の開発を中止し、撤退した理由
水素の製造コスト、水素燃焼効率の悪さ、水素タンクの大きさ、水素インフラの普及率の低さなど、問題山積みであり、水素エンジン車の市販化は、現実的でない点が理由です。
また、内燃エンジン車の進化に比べて、バッテリーEVの市販化と性能向上、コスト低減など、技術革新のスピードが、将来的に圧倒することが考えられているためです。
水素エンジン車と水素燃料電池車の違い
水素を燃料として用いる点は、水素エンジンも水素燃料電池も同じです。
水素エンジン車の仕組み
レシプロエンジンに水素を吸気、燃焼させることで、爆発力を回転エネルギーに変換します。
- ピストンなどの潤滑にオイル燃焼に伴うため、排気ガスには不純物が混じります。
そのため、CO2を排出しないものの、完全にクリーンなエンジンではありません。 - ガソリンに比べた燃焼効率が、非常に低く、パワーは半分程度とされます。
- 車載の水素タンクの維持コスト、サイズに問題があるようです。
水素燃料電池車の仕組み
水素と酸素を反応させる、水素スタックという水素化学反応ユニット内で、電気を発電します。
その電気を用いて、モーターを駆動します。車の中に水素発電機を搭載しているイメージです。
- ホンダクラリティ、トヨタMIRAIという市販車が登場しており、実用レベルに達していますが、車両価格や水素スタンドのインフラ普及度が問題点です。
- 排出物は、水となり、クリーンな動力源です。
- 車載の水素タンクの維持コスト、サイズに問題があるようです。
ホンダFCV(水素燃料電池車)とBEVの販売実績
FCV
- 1998年:FCVプロトタイプ
- 2008年:FCX(公式発表)
- 2008年:FCXクラリティ市販化(専用FCV車生産開始)
- 2016年:クラリティFUEL CELL市販化(燃料電池ユニットの小型化)
BEV
- 2020年:ホンダe発売
ホンダはEVとFCVに注力する
2022年6月22日、ホンダ定時株主総会
(日経より引用)
4月に発表した2030年までに電気自動車(EV)30車種を世界で発売するという四輪の電動化戦略について説明した。株主からは水素エンジン車の開発への質問があり、三部敏宏社長は「将来的に戦略が変わるかもしれないが、(現時点で)EVと燃料電池車(FCV)が主力になると考えている」と述べ、従来通りの姿勢を貫いた。
内燃エンジンから、EVとFCVに絞る戦略となっており、世界の潮流に沿ったものです。
ホンダの市販化実績を考えれば、当たり前の流れと言えます。
2010年に水素エンジンの開発を中止
トヨタ自動車はEVだけでなく、ハイブリッド車(HV)やFCVなど全方位戦略を示しており、水素エンジン車の市販も目指している。ホンダは10年に水素エンジンの開発を中止している。
トヨタと異なり、ホンダは公式に水素エンジンの開発中止を宣言しました。
水素エンジン車に対する問題点
水素製造コストが高すぎる
本来、クリーンエネルギーによる水素製造が望ましい姿ですが、現時点、高コストな発電による電力を大量に用いた水素製造が必要となっています。
日本では、1000円でスタートした水素販売価格が、2200円に高騰しており、ユーザー離れが進んでいます。(2024年)
水素タンクに冷却・圧縮するコストが高すぎる
700気圧に圧縮、マイナス253度の液体水素とするために大量電力が必要となる。高コスト化
水素タンクの製造コストと使用期限
- 水素タンク1本で約200万円:2~3本を搭載
- 使用期限15年で交換が必要
- 製造日から最初は4年1カ月以内、それ以降は2年3カ月以内に検査を繰り返す必要がある
水素ステーション設置に数億円
数千万のガソリンスタンド設置に比べて、広い場所と建設費用が必要となる
水素エンジンの燃焼効率が悪い
ガソリンエンジンに比べて、同一排気量で半分のパワーしか獲得できない
水素タンクにスペースを取られ過ぎ、スペース効率が無い
水素燃料電池車よりも、変換効率が悪いため、大容量の水素タンクにスペースを取られてしまう。
カローラのレースカー(2023)では、後席全て水素タンクで占領していました。
BMW試作車でもトランク全てを占領の状況でした。
水素エンジン車としてBMWは試験車を登場させたが撤退済
2006年にBMWはハイドロジェン7で市販化を試みたものの撤退、BEVとFCVにシフト
エンジン関連雇用を守る事が目的化
実際、水素エンジン車を作ることは、既存の内燃エンジン関連企業の雇用延命策に繋がります。
しかし、市販車としてはコスト度外視な内容では、ユーザーのためになりません。
すでに、水素燃料電池車の普及状況は、市場評価として失敗認定済であり、水素インフラ維持のために莫大な税金投入は、国民の税金が無駄に使われていることになります。
水素インフラの維持に経済的合理性の欠片も無い
水素製造に大量の電力を使うなら、余剰電力をそのままBEVに充電する方が効率的です。
日中の余った太陽光発電なども、揚水発電などの仕組みが効率的です。
水素燃料電池車は、市販化済・実用段階にあります。これは車を売る事の目的が優先された結果であり、水素インフラや水素価格における経済的合理性が微塵も無く、後追い・後つけの状況なのです。
水素インフラの維持は、世界市場において、既に破綻しているのです。
ホンダが水素エンジン車の撤退は妥当:まとめ
エンジン屋としての実験期間は終わった
エンジンメーカーとして、BMWが水素エンジン車の試作車を作り、失敗に終わっています。
ホンダは、同じエンジンメーカーとして、数多くのエンジン関連企業を抱えており、エンジン屋としても水素エンジン車の市販化を模索したことでしょう。
しかし、あまりにも問題山積みで非効率な状況は、誰の目にも明らかです。
エンジン屋が「水素エンジンに将来性無し」を見切ったのは当然の流れです。
水素エンジン撤退は、ホンダとして当たり前の結論
経済合理性を考えれば、エンジン屋として、水素エンジンに未来無しという結論に至ることは、当たり前の流れでしょう。世界の潮流がBEVとFCVに舵を切った中で、限られた経営資源を集中させるのも当然の流れでしょう。
水素エンジン撤退の理由に疑問点はなく、撤退は妥当であるという「まとめ」になります。