
従来のATとCVTとDCT(DSG)の比較、メリット、デメリットは何なのか?、まとめてみました。
従来のATとCVTとDCT(DSG)の比較、メリット、デメリット
伝達効率
・MT:全域:95%以上
・DCT:全域:90%以上
・CVT:低速域85%、高速域75%
・AT:低速域80%、高速域90%
いろいろと技術革新もありますので、今後数値的にはMTに接近していくものと思われます。
効率が悪いといわれているCVTもATより低速域は良いのがポイント。
この数値も数年前のものであり、BMW Mモデルにおいて、DCTを捨てたように、伝達効率・変速スピードなど総合的にトルクコンバーターATが優る状況になりつつあります。
MT
マニュアルトランスミッション。クラッチを通して動力を伝達する。
メリット
・機構がシンプル。
デメリット
・旧世代のトランスミッションとなってしまった。
・MT専用免許が必要。
・2ペダルMTという(BMWではSMG)クラッチを自動化したMTも存在。
・クラッチ寿命がある。
DCT(DSG)
デュアルクラッチトランスミッションで基本的な仕組みはMTがベース。
メリット
・伝達効率に優れる。
・変速時のトルク切れ、伝達の空白時間が発生しない
デメリット
・クラッチ寿命。
・低速時のギクシャク感。
・MTに比べて二重のギヤ構成となるため重量増となる。(約20キロ)
・ボルグワーナー社が特許を複数取得
・湿式クラッチ採用モデルは、クラッチの引きずり抵抗がある。
・乾式クラッチ採用モデルは、クラッチ寿命がやや短い。
CVT
メリット
- エンジン回転数に対する同期・制御に優れている。
- 変速ショックがない。無段変速のスムーズさ。
- 伝達効率の良い速度域がある。
- 機構がシンプルでコストが安い。
デメリット
- 高速域で伝達効率のロスが発生する。
- ハイパワー、高トルクに対応できないとされるが、対応品が出てきている
- 無断変速の変速幅に限度があるとされるが、対応品が出てきている
CVTは基本的に無段階変速なため、マニュアルモードは便宜的に段数を創り出しているに過ぎない。
変速スピードはダイレクトにギヤを切り替えるATやDCTに比べて遅い。
そのため究極のスポーツ走行には向かないが性能は向上しつつある。
海外の評価
- 欧州:ダイレクトなシフトやMTが好まれる傾向から、CVTは敬遠される
- 北米:ATメインであり、CVTが好まれないとする論調は誤り
日本製CVT車シェアは着実に伸びており、CVTを敬遠している気配すらない - 日本:普及したのは、コスト面もさることながら、無断変速のスムーズな点が評価。
燃費は副産物に過ぎない
AT(トルクコンバータ式)
メリット
・トルコンによるトルク伝達のためスムーズ、機械への負担も少なく寿命にも貢献。
・クリープなど極低速域がスムーズ。
・多段ギヤ化が一番進んでいる。
・技術的な改良・ノウハウ蓄積の歴史がある。
デメリット
・トルコンによる伝達ロス。
・重量増、仕組みの複雑化。
AT・DCT・CVTにおける「湿式」「乾式」の違い
オートマチックトランスミッション(AT)やデュアルクラッチトランスミッション(DCT)、そして無段変速機(CVT)といった現代の変速機構には、「湿式クラッチ」と「乾式クラッチ」という二つの構造方式があります。両者は内部構造も特性も大きく異なり、燃費・耐久性・フィーリングに直結する要素です。本記事では、それぞれの特徴と使い分けを分かりやすく整理します。
湿式クラッチとは
湿式クラッチ(Wet Clutch)とは、クラッチ板をオイル(ATFや専用オイル)に浸した状態で動作させる方式です。潤滑と冷却が常に行われるため、高温時でも滑りや摩耗が抑えられ、連続的な高負荷運転に強いのが特徴です。
スポーツモデルや高出力車、またはトルクが大きいエンジンと組み合わせる場合に多く採用されています。クラッチ板の摩擦面が常に油膜で保護されるため、発進時や渋滞時でも滑らかに動作し、耐久性にも優れます。
乾式クラッチとは
乾式クラッチ(Dry Clutch)は、クラッチ板をオイルに浸さずに空気中で動作させる構造です。潤滑抵抗が少なく、軽量で構造も単純なため、機械的損失が小さく燃費面に優れます。
一方で、冷却性能が低く高温に弱いため、長時間の渋滞走行や発進・停止の繰り返しには不向きです。クラッチの温度が上がりすぎると滑りやジャダー(振動)が発生する場合もあります。
湿式と乾式のメリット・デメリット比較
| 項目 | 湿式クラッチ | 乾式クラッチ |
|---|---|---|
| 冷却性能 | 高い(オイル冷却により安定) | 低い(高温環境では熱ダレしやすい) |
| 耐久性 | 優れる(摩耗が少ない) | 低い(摩擦面が直接摩耗) |
| 燃費効率 | やや劣る(オイル抵抗あり) | 高い(軽量で機械抵抗が少ない) |
| コスト・構造 | 複雑でコスト高 | 簡易で軽量・低コスト |
| 走行フィーリング | 滑らか・高級感あり | ダイレクト感強いが発進はシビア |
湿式と乾式の違いまとめ
「湿式」と「乾式」は、単なる構造の違いではなく、車の性格や用途を決定づける要素です。湿式は静粛性・耐久性・快適性を求める高級車やスポーツ車に、乾式は軽量・高効率・低コストを重視するコンパクト車に適しています。
AT・DCT・CVTといった各変速方式は、このクラッチ構造によって個性が大きく変わります。ユーザーが選ぶ際は、「どんな走行シーンで乗るか」を意識し、滑らかさを重視するなら湿式、燃費やレスポンスを求めるなら乾式を選ぶのが理想的です。
市場動向
AT・DCT・CVTごとの採用傾向
AT(オートマチックトランスミッション)
一般的なトルクコンバーター式ATでは、クラッチ自体は湿式多板クラッチを採用しています。ギアの切り替え時にトルクをスムーズに伝えるため、油圧とオイル冷却によって安定した変速が可能です。特に8速・10速ATでは熱安定性が重視され、湿式が標準となっています。
DCT(デュアルクラッチトランスミッション)
DCTには「乾式DCT」と「湿式DCT」の二種類があります。乾式DCTは軽量・高効率で、小型エンジン車(VWゴルフ1.4TSIなど)に多く採用。一方で高出力エンジン向けには湿式DCT(メルセデスAMG、BMW Mシリーズ、アウディSトロニックなど)が主流です。
湿式DCTは熱容量に余裕があり、発進時のクラッチ制御が滑らかで、耐久性にも優れます。その代わりオイルの抵抗が増すため、燃費効率は乾式よりやや劣ります。
CVT(無段変速機)
CVTはベルトやチェーンを油圧で制御する構造上、基本的に湿式が採用されています。滑らかな変速や冷却性能を確保するためであり、乾式CVTは極めて稀です。特にハイブリッド車や軽自動車では、オイルの抵抗を最小化する設計で、耐久性と燃費のバランスを取っています。
世界の状況
欧州ではMT比率が高く、DCT化(DSG)がVWグループを中心に進んでいます。
比較的渋滞が少なく、MTユーザーが受け入れやすい市場があるからです。
伝達効率や変速スピードの高さからハイパワースポーツ車ではツインクラッチのDCTが採用される傾向が高いです。
一方、日本市場では渋滞が多く、コンパクトカーではCVT化の比率が高まっています。
十分な発進加速、スムーズさ、コスト、耐久性の向上など日本メーカーが率先して技術革新を行い
市場のニーズに応える進化を遂げてきたことが挙げられます。そして世界的な上級車市場では、ATのスムーズさが好まれます。多段数化と共にスポーツ走行レベルとしての動力性能でもMTやDCT車に引けをとらないレベルまで性能も向上しています。
絶対的な燃費追求ではなく、スムーズさと高級さではATに軍配が上がります。
日本市場にとって
渋滞走行の多い日本では、ギクシャク感の多いDCT/DSGは、そもそも向いていません。
ATやCVT並みのスムーズさ、なめらかさを演出するために、クラッチに多大な負荷がかかります。
燃費追求型としてのDCTでなく、スポーツ走行向けとしてのDCTが日本のユーザーにはマッチしているのではないでしょうか。
ホンダ車はDCTを捨て、CVTへ
ホンダ車は、燃費追求としてモーターとの親和性向上のため、CVTからDCTへ変更しました。
順次、他モデルへの搭載拡大を行っていますが市場の評価はかなり厳しいようです。
基本的な特許はドイツのシェフラー製DCTがベースであり、ホンダ独自のシステムではありません。
ハイブリッド車の燃費でトヨタ車に劣勢のホンダ車としては起死回生の仕組みだったわけですが
DCT関連だけで5回のリコール連発では未完成の烙印を押されても不思議ではありません。
ホンダのHVは発進時にモーター駆動によるクリープを行うためVW・AudiのDSGのような発進時のクラッチへの負荷は少ない模様です。
ただ、変速ショックなどの大きさは滑らかさや静かさを求める日本のユーザーに受け入れられるのかは、疑問です。ホンダ車は1.5リッターダウンサイジングターボにCVTを採用し、ハイブブリッドにDCTを採用しています。この選択で今後の販売台数と市場の評価は注目したいところです。
さて、都市部の渋滞は日本特有の事象ではありません。
生産台数でトヨタを追い越す勢いのVWグループが採用するDCT・DSGですが、日本のユーザーや渋滞多用のユーザーが好んでいるわけでは無いのです。
今後、最大の自動車市場となる中国のメーカーでもトランスミッションをどの形式で行くのかが課題のようです。
あくまで燃費性能追求のスペック重視だけで、DCTを選ぶのが今のホンダだとしたらマーケティング不足の欠如は明らかでした。
結果、最新ホンダ車は、ハイブリッドにCVTを採用し、DCTを捨てる結果となりました。
AGSに未来はあるのか?
日本では、いすずのNAVI5というMTをベースに油圧アクチュエーターを取り付け、
アクセル回度や速度、エンジン回転数の状況から変速に伴う手動クラッチ接続・切断処理、ギヤのアップダウン操作を自動化した仕組みがありました。
BMWでいえば、初代SMG、SMG2という仕組みがありました。
MTベースのため、自動化のためコストが安いというメリットがありますが、クラッチ操作の自動化はクラッチの摩耗が避けられません。
欧州ではDSG、日米ではAT、アジア圏ではCVTが好まれる
欧州は慢性渋滞が少ない土地柄であり、MTが好まれる傾向にありました。
しかし、都市部では渋滞が避けられない地域も多いのですが、MTのダイレクト感や操作感、高速域主体の国民性がMT支持となっているようです。結果、MTの操作を自動化したツインクラッチのDSGが好まれるのが欧州です。
一方、アジアや北米では慢性的な渋滞となり、ダイレクトなシフトフィールよりも従来走行のストレスの無さやスムーズ感が好まれます。
よって、低速走行でのスムーズさが有利なトルコンATやCVTが好まれる傾向なのです。
この判り切ったマーケティングを無視して、VWのマネからDSGを採用するホンダ経営陣の無能さは、まさに呆れるレベルです。
ハイブリッド車の燃費効率を優先するために伝達効率の優れるDSGを採用したとも言えますが、それでもプリウスに勝ててはいません。
日本の渋滞走行に合わないDSGを採用したフィットは、まさにトラブル連発の結果を招きました。
日本でCVT評価を下げたのは自動車評論家の情報操作
日本で言えばCVTは終わった・失敗だったというような論調さえ見かけました。
当時の記事を振り返れば、単にマツダ6ATを持ち上げるための記事として整理できます。
そのマツダ製6ATは時代遅れ扱いとなっている現在です。
自動車評論家の論調
- マツダ6AT上げ、CVTを下げ論調
- 日本に多段ATは不要、6ATで十分
- 多段ATはレシオカバレッジを稼ぐためのもの。(滑らかさという観点が欠落)
日本独自に進化を遂げたCVTは耐久性と大パワーにも対応しつつ、伝達効率も向上してきました。滑らかさやコンパクト、コストなど小型車にはベストマッチでしょう。
DSG・DCT上げ主張の評論家も現在ではトーンダウン
2020年時点、DCTのブームは過ぎ去り過去のものとなったようです。以前アゲアゲだった評論家のトーンは一気に下降気味なのは言うまでも無いでしょう。
多段AT化のスピードはDCTを超え、スペックでもDCTを超えてしまうとDCTにメリットはありません。
- VWグループ、ホンダのDSGリコール連発
- BMWのMモデルDCT採用除外
- CVTのレシオカバレッジ拡大
- 10速ATなど、トルコンATの多段化がDCTを圧倒し、燃費効率も向上
- 0-100キロ加速でもDCTと遜色ないタイムでスポーツ性も向上
- 高級車ではATやCVTの滑らかさがDCTを圧倒
DCTの搭載車を絞るBMW
現在、M3などのスーパースポーツとZ4isなどの一部モデルにDCT搭載車を絞っています。
過去は、335iクーペなどのトップスポーツモデルにも設定していました。
しかし、ユーザーの不評からか、設定モデルが本当のスポーツモデルに限定しているようです。
7速DCTよりも多段化した8速ATは、シティユースでの性能にも遜色なく、トルコンの快適さが支持されているのでしょう。MT車もマニアからの要望により、一部に設定がありますが、ほとんど売れていないようです。スポーツ志向の強いBMWイメージもありますが、実際のBMWユーザーは快適性を重視する傾向のようです。
最新MモデルでDCTを除外
そして、BMW M社モデルでもDCTの採用を止めてしまいました。ZF製ATがDCTの性能を凌駕してしまったことが理由です。
1/2/X1/X2シリーズのエントリーでDCTを採用
Dセグメント以上は、トルクコンバーター8速ATとし、エントリーモデルはDCTでキビキビ感とスペース効率を優先という流れのようです。
これは、メルセデスも同様の流れとなっています。
7速Sトロニックで進化が止まるアウディ
A6で7速SトロニックのDSGを採用したアウディだが、A7、A8、最新のQ7では8速ティップトロニックのトルコンATを搭載している。本来、先進装備は上級車から搭載されるものである。これは、高級車にDSGは不向きであるということを明確に表している。
最新A4には7速Sトロニックを搭載している。これはコストの関係だろう。
これは、上級モデルはトルコンAT、下位モデルはDSGという意思表示なのである。
今後の動向
今後のプラグインハイブリッド化により、モーターとのハイブリッド化が加速していきます。その点でもDCTは役目を終えつつあるでしょう。ATやCVTとのハイブリッド化が進みます。
日本車
レクサス、ホンダが海外で10ATを登場させました。高級車は、8AT以上を搭載していくと思われます。そして、エントリーから中級モデル以下はCVTを主軸としていくでしょう。
一部で、トルコンレスATが登場しています。湿式多版クラッチのダイレクト感よりも、デメリットなギクシャク感が目立ちます。いずれも高級車らしからぬシフトショックに幻滅します。
- トヨタ製ハイブリッドにトルコンレス6AT(いまどき6ATに段数を削るという)を採用
- マツダ製CX-60にトルコンレス8ATを搭載(せっかくの8ATも台無し)
外車
低価格車はDCT、中上級モデルは、トルコンATがメインになっていくでしょう。


