「EUがついに動いた。最大政治勢力のEPPが2035年のハイブリッド車を含むエンジン車禁止の撤回を表明。」というコメントを見かけましたが本当でしょうか。その真意に迫ります。
EPPの発表コメントの内容とは
EEP公式サイト:計画の全文
EPPグループ・ポジションペーパー:欧州自動車産業の競争力確保
2035年の内燃車販売禁止の撤回が最大のポイント
和訳引用
CO2排出性能基準は、内燃機関車の新車の販売を事実上禁止することでこの原則を危うくしている。
EPPの主張はリンク先を参照いただきたいのですが、ポイントは上記に集約されます。
EPP(欧州人民党)とは
- 欧州議会では欧州人民党に参加する各国内政党のほか、中道右派やキリスト教民主主義系の無所属議員で会派「欧州人民党グループ」を形成している。
- 欧州諸国中40か国の保守主義政党およびキリスト教民主主義政党のうち、74の政党が加盟している。(1976年創設。EU内の最大政党)
ICE(内燃車)販売禁止の修正
和訳引用
2035 年に予定されている内燃機関 (ICE) 禁止は、技術中立を反映するために撤回されるべきであり、EU の脱炭素化目標の達成に向けて軌道に乗りつつ、技術の組み合わせを許可することを意味します。電気自動車 (EV) は気候中立の未来への移行において主要な役割を果たすでしょうが、他の技術も気候目標の達成に役立ちます。欧州委員会は、技術中立アプローチを再導入し、CO2 削減の達成におけるすべての技術の役割を認める規則 2019/631 の改訂を緊急に提示する必要があります。改訂では、e-燃料、バイオ燃料、再生可能燃料または合成燃料などの代替燃料の役割を明示的に免除することにより認識し、炭素補正係数の導入などの他の措置を伴い、2035 年以降の ICE 禁止を改訂する必要があります。この改訂の中で、欧州委員会はカーボンニュートラル燃料の定義も提案し、従来の燃料に比べて排出量を適切に削減し、最終的には2050年までに気候中立を達成できるようにすべきである。また、プラグインハイブリッド(PHEV)などの他の技術の役割も認識し、EV、充電・燃料補給インフラ、代替燃料の入手可能性と手頃な価格など、EU全体で適切な実施条件を確保すべきである。
上記が、ICE禁止の修正を求めるEPP計画の内容になります。
2025年目標未達によるICE罰金回避の目的
電気自動車の販売市場は期待通りに発展していません。販売数は予想を下回っており、メーカーは2025年の排出削減目標を達成できないリスクがあり、その結果、数十億ドルの罰金が発生する可能性があります。現在の危機では、メーカーは変革をマスターするために収益を必要としています。欧州委員会は、2025年のレビューで現状と予想される展開を分析し、OEMの競争力を維持するために必要な措置を決定する必要があります。これらの一時的な救済措置には、売上の一部を銀行に預けて会計処理できるようにする、3年間の平均に基づいてコンプライアンスを評価する、または罰金の計算方法を一時的に調整して登録車だけでなく生産車も考慮するなどのオプションが含まれます。これらの措置はすべて、企業がすでに行っている努力と投資を考慮に入れ、法的訴訟を回避する必要があります。罰金が避けられない場合は、EUの一般予算ではなく、特定の目的(インフラストラクチャの展開、インセンティブスキーム、デジタル化など)のために欧州の自動車部門に再投資する必要があります。外部のプレーヤーに有利性を与えることなく OEM が競争力を強化できるようにするには、EU 内または志を同じくするパートナーとのプール同盟を優先する必要があります。
2025年を迎えた今の実態
2025年からの目標値が厳しい状況となることは、自動車メーカー側の誰もが把握していたことです。
- 2021年からの罰金規定については、各社履行済
- 2025年の達成に向けて、48Vマイルドハイブリッド、PHEV、BEVなど各社対応を実施中
- 欧州域内の販売車としては、達成しているメーカーも存在する
2025年規制の変更には間に合わない
BEVの販売低迷は明確であるものの、「2025年の達成度合いが厳しいので、規定を変えましょう」簡単に法案として通るのか、難しいところでしょう。
トランプ政権のバックにはイーロンマスクがおり、反バイデン政権の主張に留まらない点を見極める必要もあるでしょう。
2035年のゴールポストを変えたい意図
ハイブリッド車というキーワードが一切ない点がポイント
某コメントより引用
EUがついに動いた。最大政治勢力のEPPが2035年のハイブリッド車を含むエンジン車禁止の撤回を表明。
EPP計画分には、「ハイブリッド車」というワードは一切含みません。
究極の脳内変換ですね。
CO2規制強化を一定クリアしている前提の話
fit for 55規制は、すでにEU議会を通過しており、規制強化の流れの中で、ストロングハイブリッドですら、規制をクリアできない数値目標が設定されています。
国内メディアの認識誤り
ジャーナリストの認識には誤りがある
- EPP自体、従来からの最大勢力に変わりない。よって、法案が確実に通る保証はない
- 2035年のゴールポスト変更がメインであり、それまでにCO2規制強化は進む
- 今後の規制強化で、ストロングHEVですら淘汰され、生き残れる保証は一切ない
- 代替燃料インフラは、BEV充電器のシェアを越えられず、所詮マイナーな話に終わる
- CAFE規制、Fit for 55など、対応すべき合意済法規制の変更へのハードルは高い
- よって、今後はPHEV車として、日本車の競争力が無ければ、生き残れない
e-fuel登場で、HEV勝利に沸いた国内メディアですが、EPPコメントには、それを強力に支援するような内容ではありません。
EPPは、以前から反EVなのだが
もともと経済界よりのEPPは反EVであり、その主張は変わっていません。最大会派でも、ちゃぶ台返し出来ずに今に至るのです。よって、以下のコメントに違和感がありますね。
民主主義国家では「世論」や「選挙」という手段でひっくり返すことができることの証左だ。
欧州EPPが2035年のHEV車禁止の撤回は本当か:まとめ
HEV勝利宣言は、2025/30/35年規定変更後の話
2025年の罰則規定が、何処まで変更されるのか?により、内燃エンジンメーカーの今後の動向が決まります。よって、EPPコメントに対しての勝利宣言は、全く意味が有りません。
欧州議会での最終合意、fit for 55およびCAFE規制の変更合意に至ってからの勝利宣言とすべきでしょう。
当然、EEP計画の主張は、2035年のゴールポストの変更がメインであり、最終ゴールの変更により、2025年の罰金規定変更の判断に繋がります。
すでに欧州では電動化に向けての生産体制が、既に完了している点を認識することが重要です。
- 欧州のBEVを計画失敗と見做すのではなく、BEVが過剰生産できるまで、生産体制が整っていたと見るべきです
- 欧州には、BEV/PHEV/48V-MHEV/ダウンサイジングターボと全方位のラインアップである
- 欧州製ICEの電動化は、これからでなく、すでに終わっていると見るべき
むしろ、BEVだけでなく「PHEVでも出遅れた日本車シェアを心配する」のが、日本メディアの役割であるという「まとめ」になります。