欧州委員会は諮問機関にすぎず規制決定の議決権は無く、強制力が無いから、ロビー活動に振り回されているだけ、とするメディアがありますが本当でしょうか。その実態を解説します。
欧州委員会による法的拘束力の意味
- 欧州理事会の諮問機関にすぎず、規制決定の議決権はない
- 欧州委員会が欧州理事会に諮問した内容がどうなったのか
既に欧州域内での決定事項を元に解説します。
この事実を確認することで、欧州自動車メーカーが、本腰を入れて電動化に取り組んでいるのか?、ロビーに振り回されているだけなのか?、左派政権の暴走なのか?、軌道修正は可能なのか?、今後の動向が見えてくると思います。
EUの主な機関の役割
あらためて、EU機関の役割と上下関係について整理してみます。
図の末尾「閣僚委員会」と「欧州議会」の決定事項が法的な拘束力を持つとされます。
引用:nikkei.com
欧州理事会(The European Council)
全EU加盟国の首脳(大統領か首相)および欧州委員会委員長、常任議長をメンバーとする最高政治機関であり、EU首脳会議とも呼ばれています。
欧州委員会 (The European Commission)
欧州委員会はEUの行政執行機関として、法令の立案、政策の施行、法の執行、国際条約の交渉などを行います。「EUの政府、内閣」、「EU基本条約の守護者」であり、欧州全体の利益を代表し、追求することが使命となっています。
欧州議会
諸法制定にあたってEU理事会への影響力を行使することができ、また、政策を執行する機関である欧州委員会の監視機関としての役割を担っています。(選出の議員で構成)
EU理事会・閣僚理事会 (The Council of the European Union )
加盟国政府の閣僚で構成され、かつては閣僚理事会(閣僚で構成)とも呼ばれていました。主たる役割はEUの法律を成立させることで、通常は欧州議会とこの立法権限を共有します。議題によって出席する担当閣僚が異なります。EU理事会がEUの諸法を制定し、政策決定を行う最高機関
EU理事会と欧州議会の効力
EU法の立法権限を共同で行使しますが、両機関の意見には法的拘束力はありません。
「意見」に効力はありません。しかし、正式に採択した規則には法的拘束力が発生します。
EU理事会と欧州議会が、それぞれ正式に採択した規則には「法的拘束力」があり、EU加盟国すべてに直接適用されます。
現在のCO2規制の決定事項・規則
Fit for 55第1弾の立法化が完了
引用元:https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/10/18cbf6da15579343.html
欧州委員会は10月9日、2030年の温室効果ガス(GHG)排出削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」(注1)で提案した主要な法案の採択が完了したと発表した。EU理事会(閣僚理事会)が同日、Fit for 55第1弾のうち未成立となっていた、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギー比率の目標を規定する再エネ指令改正案と、持続可能な航空燃料の生産・利用を促進する規則案(ReFuelEU Aviation)を正式に採択。これにより、Fit for 55第1弾で提案された主な法案の立法手続きが実質的に完了した。
欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2019年12月の就任当初から、2050年までの気候中立の達成を目指す「欧州グリーン・ディール」(注2)を最優先課題に掲げ、関連法案を立て続けに提案してきた。2020年3月には、2050年までの気候中立の達成を法的拘束力のある目標として法制化する欧州気候法案を提案。2021年4月にはEU理事会と欧州議会との間で政治合意が成立し、同年7月に施行された。
Fit for 55の決定事項と法的拘束力の実施内容
以下、公式サイトを参照。
欧州委員会の諮問レベルでなく、EUの法律という文言にまで達しているところが、メディア認識と大きく異なる点です。
引用:https://www.consilium.europa.eu/en/policies/fit-for-55/
「Fit for 55」パッケージは、EUの政策が理事会と欧州議会で合意された気候目標に沿っていることを確認することを目的として、EUの法律を改訂および更新し、新たなイニシアチブを導入するための一連の提案です。
CAFE2025法:ますます厳しくなるCO2割当量
- 2021年より施行、 欧州販売の新車について、平均的なCO2排出量遵守がメーカー義務
- 現在、この基準値は95g/kmに設定され、2025年までに81g/kmに引き下げる必要
- 規制値を未達の場合、販売台数1台のCO2超過1gあたり95ユーロの罰金が科される
- すでに各メーカーは多額の罰金を支払っている(メディアが一切報じないが)
- 今後の規制強化により罰金負担が増大する可能性がある
欧州規制の強制力と今後のCO2規制の行方:まとめ
- 欧州での自動車販売における法的拘束力を持つCAFE罰金規定は、すでに実施済
(この点をメディアは報じませんが、評論家なら周知の事実) - 2025/2030/2035年のハードルを越えるために残された期間は、僅か
- BEV低迷ニュースを列挙したところで、その声の高まりが欧州委員会の諮問レベルに達していない
- それは、Fit for 55の法的拘束力を持つ規定を撤廃または延期するレベルに達していない事を意味する
- BEV支持層とICE支持層が対立し、業界・国民の声としての合意形成のパワーも時間も無く、グリーン団体の思う壺にハマった状態
HEVが最適解なのか?
- 2035年、2050年に向けて、法的拘束力を持つ規定が粛々と実施される
- 欧州メーカーは、この流れに立ち向かう術もなく、電動化を推進するしかない
- すでに欧州の販売ラインナップでHEVよりもPHEVにシフトしているのが実態
(トヨタでもプリウスはPHEVが主力) - 某評論家のように、今さら直結駆動HEVのメリットを語る次元ではないのが欧州
- 規制強化により、ストロングHEVですら、規制値を超えらず、見通しは非常に厳しい
- 48Vハイブリッドは、すでにコモディティ化のレベルに達しており、フルハイブリッドの優位性は縮小しつつある。
(欧州では低速のアシストさえできれば良い。単に時間稼ぎに過ぎない)
ちゃぶ台返しの望みはあるのか?
現状の進捗状況から、日本メディアが語る「HEV完全勝利宣言」とは程遠いのが実態です。
EU各国のグリーン勢力を抑えて、欧州委員会の総意により「ちゃぶ台返し」の望みは僅かです。
閣僚や首脳級のトップダウンにより、欧州自動車業界の存続をかけて「ちゃぶ台返し」を行うしか、ワンチャンとして残された道は無いと考えます。