地球温暖化の抑止に向けた取り組みに対して、2035年、2050年のゴール地点が正解なのかは誰もわからない。一時的な低迷を悲惨と切り捨てる論調には無理があるという点を解説します。
土田 陽介氏:プレジデントオンラインの記事
完全に後出しジャンケンすぎる記事になっています。
欧州自動車工業会(ACEA)も最初はノリノリ
これまでも、ヨーロッパの自動車産業団体である欧州自動車工業会(ACEA)は、欧州委員会に対して、EVシフトの在り方を見直すように訴えかけてきた。またACEAなど経済界と近い欧州議会の最多会派の中道右派・欧州人民党グループ(EPP)も、EVシフトの修正を試みてきた。しかし欧州委員会は、譲歩には慎重な立場を取り続けた。
EU各国の慎重な立場が明確になったのは、「fit for 55」の合意に向けたタイミングでの話であって、近年になって慌てた状況なのです。
それまでは、EU域内でも自動車業界自らがノリノリであった時期もあり、2023年までは、BEV化の推進計画も順調であったと言えます。
現在の中国車EV優勢を予測できなかった
EUは中国を目の敵にしているが、もともとEVのようなモノに関しては、中国のような経済に比較優位性があることは明確だ。人件費も安く工業力に富んだ中国は、モノの大量生産に向いている。それにEVに必要な原材料、特に鉱物は中国で採掘される点も大きい。比較劣位にあるEUが産業政策でそれを巻き返すこと自体に無理がある。
2013年時点、日産リーフ、BMW i3、BYDなど一部のBEVしかなく、当時はバッテリー生産国に過ぎなかった中国製品が、現時点のようなBEVトップレベルのコスト・技術・品質向上・デザインを遂げるとは、誰も想像できなかったという点が正しいでしょう。
日本車の中国市場劣勢も予測できなかった
当然、日本車も欧州車も中国市場で劣勢を強いられており、販売が低迷しています。
これは、ストロングハイブリッド車も例外ではありません。
中国へ生産拠点を移した欧州・日本も例外なく低迷
世界最大のマーケットとして、中国との不利な合弁企業を立ち上げ、生産は好調に見えました。
しかし、得意とするICEやHEVですら低迷する状況となり、BEV生産を切り替えたところでコストや性能面で太刀打ちできない状況となっています。
EV化はドイツと欧州委員会の押し付けなのか
フォルクスワーゲン社などドイツの完成車メーカーは、もともとEVシフトには慎重な立場であったが、欧州委員会に押し切られるかたちで、EVシフトに着手せざるを得なくなった。ドイツの完成車メーカーの苦境は、ドイツ自体の問題も大きいが、欧州委員会が描いた性急なEVシフトという産業政策の影響によるところも、非常に大きい。
経済が好調であったメルケル政権時、VWディーゼル事件からのEVシフト、2021年のCAFE規制のタイミングにおいては、EVシフトの修正など全く無かったと言えます。
その背景として、欧州メーカー自体が、電動化に向けての体制が整ってきたという点が抜けています。
2010年代前半にBEV化の見通しが立った欧州メーカー
この背景には、2015年時点で欧州メーカーがBEV市販化の目途・見通しが立った技術レベルに達していたことです。
VWディーゼル事件は、EVシフトのキッカケに過ぎません。ドイツ自体・欧州委員会の策に対して、懸念意見が全く無かったとは言えませんが、政府・業界・労働者団体もノリノリのまま推進したということです。
2010年代前半にHEVを捨てた欧州メーカー
この点も記載がありませんが、欧州メーカーは日本製プリウスを研究し、低中速域では燃費向上が見込めるものの、アウトバーン速度域では、全くのパワー不足と燃費悪化で使い物にならなかったと判断したのです。
欧州各社は、欧州型のハイブリッド車開発を試み、電動化への中間点としてはPHEV車をロードマップに掲げた計画としました。2020年時点で、PHEV車が日本車のモデルラインナップを凌駕していたことも、日本メディアでは一切語られません。
BMWがトヨタとの提携で、Z4をスープラへ供与したものの、THS2をBMWに供与しなかったのは、日本製ストロングハイブリッドにメリットが無いと判断したたためです。
欧州はストロングHEVも開発済
ルノー製HEVがすでにあります。パワーアシスト型ハイブリッド、マイルドハイブリッド、PHEVなど、数多くの欧州製ハイブリッドが市販化されています。
ハイブリッドで敵わないから、BEV化したという、日本メディアのコメントは全く誤りです。この認識のままで、今後、中韓車に知らない間にHEV/PHEVシェアを取られている可能性が高まるでしょう。
中国製BEV/PHEVの躍進は予測不可能だった
単なる世界の請け負い工場から、テスラとライバルになる新製品BEVの発信場所へと変貌を遂げてしまいました。
また、BYDのPHEV車など、日本車ですら太刀打ちできないコスパになっています。本来、ICE/HEVでは優位に立つべき日本車ですが、見る影もない状況となっています。
世界市場でBEVシェアを取れない日本車
欧州車のBEV不振ばかりが報道されていますが、アーリーアダプタに一巡し、市場が飽和してくれば、当たり前の話でしょう。
むしろ、BEV/PHEVで世界シェア上のランキングにも入っていない日本車が問題です。
欧州メーカーにも温度差がある
- ステランティス:段階的な移行
- メルセデス、ボルボ:2030年シフトの計画を削除しただけ
- BMW:BEV販売も好調
- VW:BEV販売低迷、リストラ発表、実際BEV車としての魅力が薄い車が多い
メルセデス、ボルボがBEV完全撤退というような、誤ったメディアが多い中、2030年というキーワードを削除しただけで、大きな電動化シフトのロードマップに変更ありません。
欧州各社は、マーケットを見ながらの生産調整を行っており、リストラにまで追い込まれたのは単なるVWの計画ミスと判断できます。
まとめ
市場経済では、各企業が需要の動向を見据えながら供給の在り方を決める。EUのように、政府が需要の在り方を予測し、供給の在り方にまで口を出すことは、計画経済に他ならない。市場経済において政府がすべきことは企業の後押しであり、統制ではない。この点につき、EUの苦境から日本が学ぶべき点は大きいと言えるのではないだろうか。
メディアは一切報じませんが、EU苦境よりも、大失敗なのが水素燃料電池車です。
メーカーの押し付け施策が、政府・業界が一体となった補助金漬けが実施されています。
もはや、水素販売価格の崩壊により、MIRAIの販売は「意地になってるだけ」と誰もが理解できる超低迷状況が続いています。CO2生産のために論外なコストが発生し、水素車販売による自動車生産の雇用維持が目的となっている本末転倒な状況をメディアは報道すべきです。
電気自動車以上に超高額な「水素関連補助金を廃止」することが、市場経済のあるべき姿ではないでしょうか。